近年の分子生物学、細胞生物学、あるいは構造生物学の発展により、生体内でのタンパク質が関与する分子相互作用のブループリントが次第に明らかになってきました。生体内におけるタンパク質のどのような分子認識や構造変化が、タンパク質同士、あるいは、核酸、糖、脂質などの生体分子との相互作用を誘起するか、さらに、これらの組み合わせにより、どのように生体システムが成立し、維持されているかを考える事は、非常に興味深く、重要なことです。

 私達の研究室では、生体内で特異な機能を発揮するタンパク質やそのコア構造とも言えるペプチドの設計・創出(ものつくり)を通じて、これらの問題にアプローチする夢を持って研究を進めています。分子生物学、細胞生物学、あるいは構造生物学等の背景を理解すると共に、化学的な視点を加える事により、ユニークな機能分子の創出を目指します。このようにして創出された分子が、生体内でどのような機能を発揮するかを調べる事で、従来とは異なる視点からの生体システムに関する理解が深まることを期待します。また、これらの試みは、新しい生体機能材料や医薬品の開発にも貢献すると信じています。

 具体的には、以下のようにいくつかのテーマによる研究が研究室内で展開されていますが、これらは独立したものでなく互いに補完的であり、研究室全体でペプチド・タンパク質設計におけるポテンシャルを保ちたいと思っています。


1.ユニークな膜相互作用ペプチドを使った「細胞内」送達

生体膜と相互作用するユニークな特性を持つペプチドの設計と開発を通じて、ケミカルバイオロジーや薬物送達の新しい方法論を提供します。


2.生体膜の構造変化を誘起するタンパク質・ペプチド

細胞における膜輸送、細胞分裂などの細胞膜構造変化に不可欠な、細胞膜の「曲率」を誘導・制御する方法論を開発します。


3.DNAやRNAに結合する人工タンパク質で遺伝子を操る

新しい概念による転写調節タンパク質と遺伝子発現調節系の設計を通して生命現象の解明と制御を目指します。


4.「タンパク質工学+ペプチド化学的手法」=タンパク質の新機能

遺伝子工学的手法により調製したタンパク質に有機化学的エッセンスを加味する事により、天然タンパク質を越える機能を持ったタンパク質を創出します。