(3) ソフトマターの界面・表面の構造とダイナミクス

高分子薄膜のガラス転移

中性子反射率、X線反射率測定により高分子薄膜の厚さを温度の関数として精密に測定し、ガラス転移温度や膨張係数を調べました。さらに、異常物性の原因を明らかにするため、非弾性中性子散乱を行いました。
中性子反射率、X線反射率測定
ガラス転移温度が膜厚減少に伴い低下
ガラス状態での熱膨張係数が膜厚減少に伴い低下

膨張係数の低下は膜が硬くなっていることを示している。 薄膜のダイナミクスの非弾性中性子散乱のきっかけとなる。

Phys. Rev. E69, 022801 (2004)
Phys. Rev. E69, 06183 (2004)

非弾性中性子散乱に高分子薄膜のダイナミクス

高分子薄膜の膜厚低下による熱膨張係数の低下の原因を明らかにするため、ピコ秒領域のダイナミクスを測定できる数少ない手法である非弾性中性子散乱測定を行い高分子薄膜を調べました。その結果、平均自乗変位が減少すること、さらに振動状態密度もそれに伴い減少することが分かりました。詳細な解析より、この原因が、界面ハードレイヤーの存在のためポテンシャルのハードニングが起こっていることを示しました。
世界初の高分子薄膜の
S(Q,w)の測定
平均自乗変位<u2>の減少
振動状態密度の減少


薄膜のポテンシャルハードニングの原因:高分子と基盤の界面に存在するハードレイヤーが原因
Phys. Rev. Lett., 95. 56102 (2005))
Phys. Rev. E74, 021801 (2006)

高分子ブレンド薄膜の相分離と脱濡れ(dewetting)

ポリスチレン(PS)とポリビニルメチルエーテル(PVME)のブレンド薄膜の相分離と脱濡れを光散乱、光学顕微鏡、AFM、中性子反射率で調べました。

種々膜厚における相分離過程の
光散乱プロファイルの時間発展
相分離、脱濡れ初期の特性長の
膜厚依存性

膜厚が1μm以上の時は、相分離が優先的に起こり、100nm以下では脱濡れが優先的に起こる。その中間では両者が共存し、光散乱プロファイルに特性的なピークが観察されない。

中性子反射率測定による
脱濡れ誘導期の濃度揺らぎ

脱濡れの過程はスピノーダル分解的に見える。しかし、顕微鏡観察ではかなり長い誘導期が存在する(下図参照)。膜面に垂直方向に何か起こっていることが予想され、中性子反射率測定により膜面に相直方向の濃度揺らぎを明らかにしました。
脱濡れ誘導期に膜面に
垂直方向に濃度揺らぎが発生