水化学エネルギー(AGC)研究部門

客員教授 中原 特定助教 辻野 康夫
 
 

研究内容

[ギ酸の水熱反応の応用]

 ギ酸 は、様々な水熱酸化反応の生成物および中間生成物であるため、その反応機構の解明は多くの水熱反応機構の解明にもつながると期待される。そのため、私達は ギ酸の水熱反応に注目し、速度論的解析を進めてきた。ギ酸は無触媒熱水反応で比較的高温でない場合(1) HCOOH→CO+H2O、高温の場合(2) HCOOH→CO2+H2の2系列の競争的分解経路を持ち、その前者が可逆的であることをはじめて明らかにした。さらに、私達はこの2系列の反応経路の選 択性が金属、酸性度、濃度、温度によって決まることを示した。

  (1)式の可逆性の発見により、1世紀以上に亘りCO+H2O→ CO2+H2と考えられていた水性ガスシフト反応は、(1)、(2)両式より、ギ酸を中間体に持つと考えられる。私達は、一酸化炭素と水のみから、無触媒 高温水中でギ酸を生成させることに成功し、ギ酸が水性ガスシフト反応の中間生成物であることを証明した。究極のクリーンエネルギー源として注目を浴びてい る水素は、製造コスト、貯蔵性、輸送性に問題を抱えるが、この研究成果により、水素を低コストかつ簡便に製造し、ギ酸という物質の形で貯蔵・輸送すること が可能となる。この方法を用いれば、ギ酸は水と一酸化炭素という無機物のみから生成され、光合成の産物である化石燃料やバイオマスを必要としない。無機物 から有機物を生み出した点は、熱水中で起こったとされている化学進化の観点からも意義深い。また、高価な金属触媒を用いず、加熱のみと操作が簡便であるた め、コスト面で優れている。ギ酸として貯蔵された水素を取り出す際も、ギ酸の無触媒水熱分解反応を用いるため安価で簡便であり、反応効率も上記の選択性に より制御できる。ギ酸は水と任意の割合で混合でき、引火の危険性の無い形で貯蔵・輸送できる。まさに、ギ酸は水素の「貯蔵タンク」や「輸送船」として機能 する。

ギ酸の分解と燃料水素の生成

超 臨界水・熱水は、無触媒化学反応を引き起こす、廉価で環境に優しい反応場である。この反応場の理解と制御のための基礎となるものは、単純な化合物を出発物 質とする反応である。もっとも単純なものは、C1化合物と呼ばれ,炭素原子を1つ含むものである。C1化合物でありながら、競争的分解経路をもつギ酸に焦点を当てて、その反応に対する水和の効果を解説する。

ギ酸は

HCOOH → CO + H2O

HCOOH → CO2 + H2

で あらわされるような2つの競合する分解経路を持つ。1つの経路は脱水反応であり、極性分子であるギ酸が、無極性分子の一酸化炭素と極性分子である水に分解 する。もう1つの経路は脱炭酸反応である。分解によって生成する二酸化炭素と水素が、ともに、無極性分子である。これら2つの分解反応の生成系の間の反応 は、水性ガスシフト反応と呼ばれ、

CO + H2O → CO2 + H2

と あらわされる。水性ガスシフト反応は、有毒ガスである一酸化炭素に水を吹き込んで、燃料である水素を生成する(文献6)。水素は、燃焼によって水だけを生 成する最もクリーンな燃料であるため、水性ガスシフト反応は、燃料技術における最も重要な反応である。ギ酸の2つの分解経路の競合の平衡は、水性ガスシフ ト反応の平衡によって決まる。ギ酸の分解平衡の解析によって、燃料水素を生み出す反応の制御に迫ることができるというわけである。

以下、研究発表、論文集等、随時更新中。


連絡先:0774-38-4527(TEL/FAX共通)
 
 

論文集
イオン液体中におけるギ酸合成
 

高圧力の科学と技術 2010年 1巻
 

 

学会発表
日本真空協会関西支部&日本表面科学会関西支部合同セミナー2010
 


 

2009年イベント
宇治キャンパス祭の写真
 

 

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