研究内容

 私たちは、金属・半導体などを組み合わせてナノスケールの人工物質を作り出し、
 電子の電荷・スピン・位相の織り成す多彩な物性の制御を目指した研究を行っています。
 特に、電子の二つの自由度である電荷とスピンを自在に制御するスピントロニクスを
 実現することを目指しています。このような研究は、近年の微細加工技術の飛躍的な
 進展によって初めて可能になったもので、基礎研究が応用へと直結する物質科学研究
 として世界的に一大潮流となっています。


  人工物質の作製は、

 (1) 超高真空蒸着による原子層単位での多層膜作製
 (2) 電子線リソグラフィーを用いたナノメートルスケールの加工

 という二つの微細加工技術を組み合わせて行います。
 得られた人工ナノ物質を舞台として、電気伝導度・X線回折・磁化率・磁気力顕微鏡・
 トンネル顕微鏡・メスバウアー分光・中性子回折などの様々な測定手法を駆使して、
 新しい物性の探索を行い、電気伝導や磁性などの物性の制御を行います。

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現在進行中のテーマ

●概要

磁壁とは、磁石のN極とS極の向きがそろった磁区構造において、磁区と磁区の間にある原子の磁気モーメントが少しずつ連続的に反転する空間のことをいいます[図1]。それぞれの磁区は磁壁という磁気の壁により隔てられており、磁区の境界面に垂直な方向と面内方向を軸にすることによってブロッホ磁壁とネール磁壁と分けられます。

以前は磁壁が磁場によってのみ変化させることが可能であると考えられてきたが、本研究室は2004年世界初の電流による磁壁移動が可能であることを実証した[図2]。磁壁移動に基づく不揮発メモリなどへの応用が期待されています。
2008年、IBMが大容量と高速、低消費電力、不揮発性、低コストを兼ね備えるレーストラックメモリ(磁壁移動メモリ)の概念と基礎実験の結果[図3]を発表して以来、磁壁移動に関する研究が盛んに行われています。磁壁移動メモリでは、ワイヤ状に加工した磁石の中でN極およびS極の方向をデジタル情報として担わせ、それらをシフトさせることで情報の読み出しを行います。このメモリは、電荷の移動を伴わないため、劣化が起こらず高い耐久性を有するので、次世代メモリとして有用な技術として期待されています。

●フェリ磁性体における磁壁移動と温度依存性の解明(2015-2019)

2015年から本研究室ではフェリ磁性体を用いた様々な磁壁移動機構を解明しました。フェリ磁性体は一般的な強磁性体と違い、異なる大きさの磁気モーメントが反強磁性体のように互いに反対方向に配向し、磁気モーメントの差で磁化が発生する磁気的性質を持つ材料です。フェリ磁性体には、磁化、および角運動量が消失する磁化補償温度と角運動量補償温度があり、普通の強磁性体における磁壁移動とは異なる性質を示しています。

2017年、本研究室の研究チームは、フェリ磁性体GdFeCoの細線を利用し[図4]、角運動量補償温度での2 km/s以上の超高速磁場駆動磁壁移動に達成することを示しました[図5]。図5で示した青色の領域はGdFeCo試料の角運動量補償温度(TAです。この結果によると、磁場駆動の磁壁移動速度はTAで最大値になることがわかります。外部磁場100mTを印加する場合は、2 km/sの超高速磁壁移動を実現することは可能となります。磁壁内部の磁化が固定されて磁壁が動き(steady motion)、ある磁場(Walker磁場)より大きくなると、磁壁内部の磁化が歳差運動を伴って磁壁が移動(precessional motion)します。本研究では、角運動量補償温度におけるフェリ磁性体は、磁壁移動と伴う磁化の歳差運動が抑えられるため、超高速磁壁移動を実現できる新しい磁壁移動機構を見出しました。

2019年、本研究室の研究グループはフェリ磁性体GdFeCoの磁壁に対して、電流と磁化の相互作用であるスピン移行トルクが与える効果を実験および理論の両面から解明しました。フェリ磁性体の角運動量補償点近傍では、反強磁性磁化ダイナミクスを実験的に調査することが可能です。図6(a)に示すような実験配置を用いて、フェリ磁性体の磁壁移動速度を様々な温度で測定しました。その結果、図6(b)に示すように、スピン移行トルクに起因する磁壁速度が、角運動量補償温度の近傍で符号反転することが明らかになりました。さらに、フェリ磁性体における磁壁速度の理論式を導出して実験データを解析した結果、図6(c)に示すように、角運動量補償温度に対してスピン移行トルクの断熱成分が反対称(青色曲線)、非断熱成分が対称(赤色曲線)な温度依存性を示すことが分かりました。この結果は、磁壁移動速度に占めるスピン移行トルクの非断熱成分が角運動量補償温度で大きくなることを示しています。したがって、この実験結果は反強磁性体の磁壁に大きな非断熱スピン移行トルクが働くことを意味しています。

●波及効果と今後の展望

私たちの研究グループは、磁場によって超高速に移動する磁壁をフェリ磁性体において実現し、フェリ磁性体において磁壁移動速度に占める非断熱スピン移行トルクの効果が大きいことを実証し、磁場と電流駆動におけるフェリ磁性体に関する様々な新しい磁壁移動機構を発見しました。電流による磁壁移動の高速動作、補償温度に関する知見が得られ、反強磁性材料を用いた磁壁レーストラックメモリの実現を目指した研究がさらに活発になると期待されます。

●論文タイトルと著者

タイトル: Fast domain wall motion in the vicinity of the angular momentum compensation temperature of ferrimagnets
(フェリ磁性体の角運動量補償点における高速磁壁移動)
著者: Kab-Jin Kim, Se Kwon Kim, Yuushou Hirata, Se-Hyeok Oh, Takayuki Tono, Duck-Ho Kim, Takaya Okuno, Woo Seung Ham, Sanghoon Kim, Gyoungchoon Go, Yaroslav Tserkovnyak, Arata Tsukamoto, Takahiro Moriyama, Kyung-Jin Lee and Teruo Ono
掲載誌: Nature Materials DOI: 10.1038/NMAT4990

タイトル: Spin-transfer torques for domain wall motion in antiferromagnetically coupled ferrimagnets
(反強磁性結合フェリ磁性体の磁壁移動スピントランスファートルク)
Takaya Okuno, Duck-Ho Kim, Se-Hyeok Oh, Se Kwon Kim, Yuushou Hirata, Tomoe Nishimura, Woo Seung Ham, Yasuhiro Futakawa, Hiroki Yoshikawa, Arata Tsukamoto, Yaroslav Tserkovnyak, Yoichi Shiota, Takahiro Moriyama, Kab-Jin Kim, Kyung-Jin Lee and Teruo Ono
掲載誌: Nature Electronics DOI: 10.1038/s41928-019-0303-5

●概要

テラヘルツ光・電磁波の利用は将来の大容量通信やセンシング技術を担う重要技術として近年注目を浴びています。特に、ポスト5Gにおける通信周波数はテラヘルツ帯域が想定されており、これらの周波数帯に対応するデバイスの開発・創製が早急に望まれています。ギガヘルツ帯に共鳴周波数を持つ強磁性体は従来のマイクロ波デバイスに多用されています。しかしながら、テラヘルツ帯においてはほとんど応答しないため、これらのデバイス応用には強磁性体は不向きです。一方で、反強磁性体における磁気共鳴(反強磁性共鳴)周波数は交換結合に起因する交換磁場に比例するため、強磁性体に比べて圧倒的に高くなり、テラヘルツ帯に至ることが知られています(図1)。また、近年様々なテラヘルツ材料が提案されていますが、反強磁性体を利用するメリットとしてスピントロニクスとの親和性が挙げられます。反強磁性体に内在するスピン自由度とテラヘルツ電磁波との相互作用を利用することで、新規な “テラヘルツ”スピントロニクスデバイスへと展開できる可能性を秘めています。このような魅力的な可能性があるにも関わらずテラヘルツスピントロニクスを見据えた反強磁性ダイナミクスの実験的研究はほとんどありませんでした。



私たちは、1THz付近に共鳴周波数を有する反強磁性体・酸化ニッケル(NiO)に着目し、反強磁性磁化ダイナミクスからスピン流への変換現象(スピンポンピング効果)について調査しました。図2(a)に示したようなテラヘルツ透過吸収測定を周波数ドメインにおいて行いました。テラヘルツ透過吸収測定から得られた共鳴スペクトルを図2(b)に示します。ちょうど1THzにNiOの反強磁性共鳴による吸収ピークを観測しました。 本成果は、反強磁性共鳴を利用したテラヘルツ帯におけるスピンポンピング効果(磁化ダイナミクスからスピン流への変換現象)を世界に先駆けて実証したものであり、反強磁性磁化ダイナミクスとスピン自由度の相互作用の一端を明らかにしました。

●波及効果と今後の展望

本成果で実証した反強磁性ダイナミクスによるスピンポンピング効果は、様々な形で発現する磁化ダイナミクスと電子スピンの相互作用のあくまで一端ですが、テラヘルツデバイスにおける反強磁性体の可能性を示した重要な成果です。今後は、反強磁性体に内在するスピン自由度とテラヘルツ電磁波との相互作用を積極的に利用した新規な“テラヘルツ”スピントロニクスへと展開していきます。

●論文タイトルと著者

タイトル: Enhanced antiferromagnetic resonance linewidth in NiO/Pt and NiO/Pd
(NiO/Ptおよび NiO/Pdにおける反強磁性共鳴線幅の増大)
著者: Takahiro Moriyama, Kensuke Hayashi, Keisuke Yamada, Mutsuhiro Shima, Yutaka Ohya, Yaroslav Tserkovnyak, and Teruo Ono
掲載誌: Physical Review B DOI: 10.1103/PhysRevB.101.060402

●概要

近年ICT社会の急激な発展により情報が盛んに処理・伝搬され、演算装置のさらなる省電力化、高速化が求められています。こうした要請から磁性体中の磁化の運動が空間的に広がる波(スピン波(図1))を情報媒体として利用する、 マグノニクスという分野の研究が盛んに行われています。

スピン波は伝搬の過程で電荷の移動に伴うジュール熱が発生しないため、スピン波を利用したデバイスは半導体を用いた従来のデバイスと比べて省電力化することが期待されています。

スピン波デバイスの実現のために重要なスピン波の性質の一つとして非相反性(伝搬方向に依存して異なる性質を持つこと)が挙げられます。しかしながら、従来の報告されていたスピン波の非相反性は、界面効果に起因していたために1 nm程度の非常に薄い薄膜でしか効果がありませんでした。
本研究分科では人工反強磁性体Fe60Co20B20/ Ru/ Fe60Co20B20薄膜(図2(a))を用いてスピン波の伝搬を測定しました。測定では薄膜上に2つのアンテナを作製し、スピン波の励起と検出を行いました(図2(b))。

図2(c)に、外部磁場とスピン波の伝搬方向が平行な時に測定したスピン波の伝送波強度の周波数依存性を示します。スピン波の伝搬方向に依存してピーク位置が明らかにシフトしており、スピン波が異なる共鳴周波数を持つこと( 非相反性)を観測することに成功しました。今回実験を行った磁性層の膜厚15ナノメートルに着目すると、非相反性による共鳴周波数の差は従来報告されているものに比べて28 倍程度大きく、さらに磁性層を大きくすることで増大する事が可能です。

●波及効果と今後の展望

本研究では、人工反強磁性体中を伝搬するスピン波の巨大な非相反性を制御することに成功しました。図2(d)に示すように、非相反性は磁性層の厚さを増やすことでさらに大きくなることが期待できます。本研究成果は、スピン波の可変ダイオード素子などの開発にもつながり、スピン波を利用した論理演算素子などへの応用研究を大きく発展させると考えられます。

●論文タイトルと著者

タイトル: Switchable giant nonreciprocal frequency shift of propagating spin waves in synthetic antiferromagnets
(人工反強磁性体におけるスピン波伝搬の反転可能な巨大非相反周波数シフト)
著者: Mio Ishibashi, Yoichi Shiota, Tian Li, Shinsaku Funada, Takahiro Moriyama and Teruo Ono
掲載誌: Science Advances DOI: 10.1126/sciadv.aaz6931

●概要

物質中で空間反転の対称性が破れているとき、すなわち180°回転させた構造が元の構造と 一致しないとき、電気伝導性が電流の印加方向で異なる非相反電荷輸送現象が生じることが知られていま す。その代表として、順方向に電流をよく流す一方で逆方向にはほとんど流さない特性を持つ素子である 半導体ダイオードが挙げられます。しかし、半導体は有限の抵抗をもつのでエネルギーの損失を生じま す。そこで、半導体ではなく電気抵抗がゼロになる超伝導体においてそのようなダイオードを実現すれば エネルギー損失のない電子回路を実現できます。しかし、これまでの超伝導体では抵抗が有限の領域でし か非相反性が観測されていませんでした。
図1(左) 空間反転対称性の破れ。 (右) 非相反電荷輸送現象の例。電圧が電流方向に よって異なることを示している。

私たちはまずニオブ(Nb)層、バナジウム(V)層、タンタル(Ta)層から構成される人工格子を作製し、低温で超伝導転移することを実証しました。 この人工格子は図2(左)に示されるように積層方向に対して反転対称性が破れています。 次に、薄膜面内かつ電流と直交する方向に外部磁場を印加して臨界電流測定を行いました。 臨界電流とは超伝導体に流せる電流の限界値であり、その電流値を超えて電流を流すと超伝導状態が破壊されます。 図2(中)はNb/V/Ta人工格子の順方向(実線)と逆方向(点線)の両方について抵抗の電流依存性を示しています。 これは、Nb/V/Ta人工格子の臨界電流が印加電流の方向によって異なることを意味しています。 更に、磁場の印加方向を逆転させると、順方向と逆方向で臨界電流の大小関係も逆転することが明らかになりました(図2(右))。
図2(左) ニオブ層、バナジウム層、タンタル層から構成される人工格子の概略図。 [1] (中) 4.2 Kで薄膜面内かつ電流と垂直方向に磁場を印加したときの抵抗の、電流及 びその方向依存性。[2] (右) 順方向、逆方向それぞれの臨界電流の磁場依存性。 [2]

次に、この非相反的な臨界電流を利用し、電流方向および磁場方向に応じて超伝導―常伝 導スイッチングができることを実証しました(図3)。これは、Nb/V/Ta人工格子が超伝導ダイオードと して機能することを意味しています(図4)。超伝導状態の順方向と常伝導状態の逆方向で抵抗比は 2,000倍を超えており、200 Oeという比較的小さな磁場でダイオードの方向を切り替えられることが分か りました。今回観測された一連の非相反現象は、薄膜積層方向の空間反転対称性の破れによる効果である と考えられます。
図3 超伝導―常伝導スイッチング。[2]
図4 超伝導ダイオード。[2]

●波及効果と今後の展望

本研究では、ニオブ(Nb)層、バナジウム(V)層、タンタル(Ta)層から構成される非対称 構造を有した超伝導人工格子において、臨界電流の大きさが電流方向に依存することを発見し、超伝導 ダイオード効果を実証しました。本研究で観測された超伝導ダイオード効果は、エネルギー非散逸かつ方向 制御可能な電荷輸送技術の確立に向けて大きく貢献することが期待されます。今後は、高感度な検出器や 低エネルギー散逸の周波数混合器などといった電子回路への応用の観点から、より詳細なダイオード性能 評価および物質探索が行われるものと考えられます。一方で、臨界電流の非相反性のメカニズムについて は今なお不明瞭な点が多く残されており、実験と理論の両面からアプローチして解明することが求められ ています。

●論文タイトルと著者

[1] タイトル: Fabrication of noncentrosymmetric Nb/V/Ta superlattice and its superconductivity
(中心対称のないNb/V/Ta超格子の作製とその超伝導)
著者: Fuyuki Ando, Daisuke Kan, Yoichi Shiota, Takahiro Moriyama, Yuichi Shimakawa and Teruo Ono
掲載誌: Journal of the Magnetic Society of Japan DOI: 10.3379/msjmag.1903L001

[2] タイトル: Observation of superconducting diode effect
(超伝導ダイオード効果の観測)
著者: Fuyuki Ando, Yuta Miyasaka, Tian Li, Jun Ishizuka, Tomonori Arakawa, Yoichi Shiota, Takahiro Moriyama, Youichi Yanase and Teruo Ono
掲載誌: Nature volume 584, pages373 376(2020) DOI: 10.1038/s41586-020- 2590-4

●概要

オプトマグノニクスとは、物質中のマグノン(磁性体の持つ磁化の揺らぎを記述する集団運動モードの量子)と光子との相互作用を研究する分野です。現在我々は次のような目標を掲げて研究を進めています。

  1. 量子情報処理への応用を目指して:我々はマグノンを用いた量子波長変換器の実証研究を進めています。量子波長変換器とは、電磁波の量子状態を異なる波長にコヒーレントに変換する装置のことです。特に、制御性に秀でるマイクロ波光子と長距離伝送が可能な通信波長帯(波長1500 nm)光子とを繋ぐ量子波長変換器は、量子インターネット構築に不可欠な装置であるため、量子情報処理研究において近年精力的に研究が進められています。エネルギーにして4桁の違いがあるこの2種類の電磁波をコヒーレントに変換するには、媒介となる物理系を用意しなければなりません。その候補として様々な物理系があがる中、我々はマグノンに注目し研究を進めています。
  2. 物質中の電磁気学のさらなる開拓に向けて:物質中には様々な対称性や自由度が存在するため、真空中の電磁気学では想像がつかなかった新しい現象が日々報告されています。我々は、量子光学の知見や量子エレクトロニクス技術を用いてオプトマグノニクス研究を推進することにより、物質中の電磁気学に新しい展開を生み出すことを目指し基礎研究を進めています。

以下で我々がこれまでに得た代表的な結果について紹介します。

強磁性マグノンを用いた光-マイクロ波双方向変換の実証
2016年、我々はマグノンを用いて、光-マイクロ波間で信号変換が可能であることを実証しました[1]。図1に実験系の概略図ならびに主な実験結果を示します。そこでは波長変換器に欠かせない性質であるa)双方向信号変換が可能であること、b)信号の位相を保持したコヒーレントな変換が可能であることを実証し、さらに変換効率の絶対値を取得する方法を確立しました。この論文は現在、マグノンを用いた波長変換研究のマイルストーンとなっています。



マグノン誘起ブリルアン散乱における新奇保存則の発見

2019年、我々はマグノンと光の相互作用の過程で起こる新しい保存則を発見しました[2]。図2に実験系の概略図ならびに主な実験結果を示します。入射光は物質中のマグノンと相互作用することにより散乱されることがあります。そのような現象はマグノン誘起ブリルアン散乱と呼ばれています。本研究では、これまで強磁性体では観測されてこなかった高次の散乱(2マグノン散乱)を初めて観測し、さらに強磁性単結晶の結晶軸の向きに依存して通常とは異なる角運動量保存則が成立することを発見しました。本研究で得られた知見は2次元強磁性薄膜におけるマグノン誘起ブリルアン散乱観測に適用され始めています。

●波及効果と今後の展望

上記の結果は、近年勃興したオプトマグノニクス研究が基礎応用両面で成果を出し始めていることを如実に示しています。しかし、量子波長変換器の実現にはマグノンと光子間の相互作用強度を増強することが必要であることも既に我々の研究からわかっています。そのような課題の克服に向け、我々は歩を進めています。また同時に、物質中の電磁気学に新しい展開を生み出すことを目指し基礎研究も進めています。

●論文タイトルと著者

[1]タイトル: Helicity-changing Brillouin light scattering by magnons in a ferromagnetic crystal
(強磁性結晶におけるヘリシティ変化を伴うマグノン誘起ブリルアン散乱)
著者: Ryusuke Hisatomi, Alto Osada, Yutaka Tabuchi, Atsushi Noguchi, Rekishu Yamazaki, Koji Usami, and Yasunobu Nakamura
掲載誌: Physical Review B, DOI: 10.1103/PhysRevB.93.174427
[2]タイトル: Bidirectional conversion between microwave and light via ferromagnetic magnons
(強磁性マグノンによるマイクロ波-光双方向変換)
著者: Ryusuke Hisatomi, Atsushi Noguchi, Rekishu Yamazaki, Yosuke Nakata, Arnaud Gloppe, Yasunobu Nakamura, and Koji Usami
掲載誌: Physical Review Letters, DOI: 10.1103/PhysRevLett.123.207401

過去の研究

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