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最近の研究成果

マルチフェロ特性を示すLiNbO3型新酸化物InVO3の高圧合成

譚振宏さん(博士課程学生(当時))が中心となり、マニトバ大学(カナダ)と共同で高圧法によりLiNbO3型新物質InVO3の合成に成功しました。InVO3はGdFeO3型ペロブスカイト構造となることが予想されていましたが、予想に反して中心対象のない結晶構造であるLiNbO3型となり、強誘電特性を示すことを明らかにしました。低温では磁気秩序もマルチフェロとなり得る新物質です。

Z. Tan, J. A. Lussier, T. Yamada, Y. Xu, T. Saito, M. Goto, Y. Kosugi, D. Vrublevskiy, Y. Kanemitsu, M. Bieringer, and Y. Shimakawa
"LiNbO3-type polar antiferromagnet InVO3 synthesized under high-pressure conditions"
Angew. Chem. Int. Ed., e202203669/1-4 (2022). DOI: 10.1002/anie.202203669


SrFeOy薄膜への電界制御によるプロトン導入

磯田洋介さん(博士課程学生)が中心となり、SFOyエピタキシャル薄膜をチャネル層、プロトン伝導性電解質であるNafionをゲート絶縁体としたとしたトランジスタ構造を作成して、SFOy薄膜の電界制御を試みました。その結果、電圧印加によりNafion/SFO界面においてプロトン脱挿入に伴う酸化還元反応が起こっていることを明らかにしました。

Y. Isoda, D. Kan, Y. Ogura, T. Majima, T. Tsuchiya, and Y. Shimakawa
"Electrochemical control and protonation of the strontium iron oxide SrFeOy by using proton-conducting electrolyte"
Appl. Phys. Lett., 120, 091601/1-5 (2022). DOI: 10.1063/5.0083209


CaFe3Ti4O12におけるマルチスピン副格子反強磁性磁気秩序の発見

Amano Midori特定助教が中心となり、ISIS中性子施設とエジンバラ大学(英国)と共同でA'サイトにFe2+を含むAサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物CaFe3Ti4O12の合成に成功しました。この物質ではA'サイトのFe2+イオン(S=2)が作る3つのスピン副格子が入り組んだ特異な反強磁性磁気構造をとることを中性子磁気構造解析から明らかにしました。この特異な磁気構造はスピン-軌道相互作用と長距離の磁気相互作用が拮抗により引き起こされています。

M. Amano Patino, F. D. Romero, M. Goto, T. Saito, F. Orlandi, P. Manuel, A. Szabo, P. Kayser-Gonzalez, K. H. Hong, K. Alharbi, J. P. Attfield, and Y. Shimakawa
"Multi-k spin ordering in CaFe3Ti4O12 stabilized by spin-orbit coupling and further-neighbor exchange"
Phys. Rev. Research, 3, 043208/1-8 (2021). DOI: 10.1103/PhysRevResearch.3.043208


異常高原子価Fe5+スピンの幾何学的磁気フラストレーション

後藤助教が中心となり、ダブルペロブスカイトLn2LiFeO6 (Ln = La, Nd, Sm, and Eu) の合成に成功しました。一連の物質はBサイトに異常高原子価状態のFe5+イオンを含み、このスピンが幾何学的磁気フラストレーションを起こします。Aサイトのイオンサイズによって構造歪が生じ、その結果、スピンがわずかに傾いた反強磁性的スピン配列へと変化することも明らかになりました。

M. Goto, T. Oguchi, and Y. Shimakawa
"Geometrical Spin Frustration and Monoclinic-Distortion-Induced Spin Canting in the Double Perovskites Ln2LiFeO6 (Ln = La, Nd, Sm, and Eu) with Unusually High Valence Fe5+"
J. Amer. Chem. Soc., 143, 19207-19213 (2021). DOI: 10.1021/jacs.1c09838


フェリ磁性NiCo2O4薄膜の垂直磁化磁気特性

菅准教授が中心となり、垂直磁化を示すNiCo2O4薄膜の研究を進めています。NiCo2O4ではベリー相の曲率が異常ホール効果において重要であることを明らかにしました。また、組成傾斜したNiCo2O4薄膜を作成することにも成功しており、磁気異方性の変化から組成傾斜に応じた垂直磁化特性の変化も見出しています。

D. Kan, L. Xie, and Y. Shimakawa
"Scaling of the anomalous Hall effect in perpendicularly magnetized epitaxial films of the ferrimagnet NiCo2O4"
Phys. Rev. B, 104, 134407/1-5 (2021). DOI: 10.1103/PhysRevB.104.134407
D. Kan, I. Suzuki, and Y. Shimakawa
"Tuning magnetic anisotropy by continuous composition-gradients in a transition metal oxide"
J. Appl. Phys., 129, 183902/1-8 (2021). DOI: 10.1063/5.0050247


BiCu3Cr4O12におけるマルチ熱量効果の実証

小杉佳久さん(博士課程学生)が中心となり、マックスプランク固体研究所(ドイツ)と共同でフェリ磁性BiCu3Cr4O12が電荷不均化転移を示す温度で磁気熱量効果と圧力熱量効果を示すこと(マルチ熱量効果)を実証しました。この物質では、電荷不均化転移により生じるCu2+、Cr3+、Cr4+のスピンによりフェリ磁性が現れ、この磁気転移での磁気エントロピー変化を磁場印可でも圧力印可でも熱量効果を起こすことができます。マルチ熱量効果を利用すれば、複数の外部刺激により冷却などの熱制御が可能となります。

Y. Kosugi, M. Goto, Z. Tan, D. Kan, M. Isobe, K. Yoshii, M. Mizumaki, A. Fujita, H. Takagi, and Y. Shimakawa
"Giant multiple caloric effects in charge transition ferrimagnet"
Sci. Rep., 11, 12682/1-8 (2021). DOI: 10.1038/s41598-021-91888-8


NdCuFe4O12における巨大圧力熱量効果の発見

小杉佳久さん(博士課程学生)が中心となり、NSRRCと国立台湾大学(台湾)と共同でAサイト秩序型ペロブスカイトNdCu3Fe4O12が室温近傍で巨大な圧力熱量効果を示すことを見出しました。この物質ではサイト間電荷転移に伴い反強磁性転移が起こりますが、この時の磁気エントロピー変化を圧力を加えることで制御することができます。近年顕在化している熱の関する諸問題を解決する材料として注目を集めています。

Y. Kosugi, M. Goto, Z. Tan, A. Fujita, T. Saito, T. Kamiyama, W.-T. Chen, Y.-C. Chuang, H.-S. Sheu, D. Kan, and Y. Shimakawa
"Colossal Barocaloric Effect by Large Latent Heat Produced by First‐Order Intersite‐Charge‐Transfer Transition"
Adv. Func. Mater., 31, 2009476/1-7 (2021). DOI: 10.1002/adfm.202009476


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