無機ナノ粒子の相分離構造制御と構造特異的機能

単一化学種からなるナノ粒子では、粒径および形状が主に制御すべき一次構造である。ナノ粒子が二種類以上の化学種からなる場合、一次構造制御因子として新たに組成、結晶構造、相構造(化学種がランダムに結晶のサイトを占めるアロイ構造、各化学種が同心球状に分離したコアシェル層構造、異方的に相分離したヘテロ接合構造)が加わる。アロイ構造およびコアシェル層構造は、相分離の観点からはいずれも等方的である。二つの化学種が異方的に相分離した構造が形成できれば、多機能同時発現、各相表面への機能性有機配位子の選択的結合によるナノ粒子の異方性配列制御、ヘテロ界面での原子・イオン拡散による新規機能材料の創出が可能になる。異方性相分離ヘテロ構造無機ナノ粒子に関する研究は数年前から盛んになり、これまでに得られている異方性相分離ヘテロ構造ナノ粒子として、金属/金属カルコゲニド半導体、金属/磁性酸化物、金属カルコゲニド半導体/金属カルコゲニド半導体などがある。





硫化CoPd(Co9S8/PdSx)ナノどんぐりの発見
我々は,3d遷移金属と貴金属からなる二元金属ナノ粒子の合成および磁気特性に関する系統的な研究において、Co種とPd種が異方性相分離したナノ粒子の合成に成功した。この粒子は,ジ-n-オクチルエーテル中1-オクタデカンチオール(C18SH)存在下、コバルトアセチルアセトナト二水和物(Co(acac)2・2H2O)およびパラジウムアセチルアセトナト(Pd(acac)2)の反応により得られる。明るい相と暗い相からなる平均サイズ~14 nm(長さ) 10 nm(幅)のどんぐり形状ナノ粒子(ナノどんぐり)が主生成物として生成する。ナノスポットEDX組成分析から、CoとPdが粒子の明るい部分ならびに暗い部分にそれぞれ局所的に分布していることが分かった。さらに、高分解能TEM、XRDを用いた結晶構造解析により、粒子の暗い部分はアモルファス硫化パラジウム(PdSx)から,明るい部分は結晶性硫化コバルト(Co9S8)から構成されており、二相の界面はCo9S8の(001)面に規定されていることが明らかとなった。この硫化CoPd(Co9S8/PdSx)ナノどんぐりは、アモルファス相と結晶相が大きな界面で接合している極めて特異的な構造を有している。




硫化CoPd(Co9S8/PdSx)ナノどんぐりのHRTEM像と結晶構造

[Ref.] JACS 2004, 126, 9915.; Chem. Lett. 2007, 36, 490.


硫化CoPdナノどんぐりの融合による硫化PdCoPd(PdSx/Co9S8/PdSx)ナノピーナッツの合成
硫化CoPdナノどんぐりの生成機構において、PdSxナノ粒子からCo9S8相が異方的に成長することを考慮すると、PdSxナノ粒子が異方性相分離構造形成の鍵物質であると予想される。そこでPdSxナノ粒子を種粒子としたseed- mediated成長法による新規異方性相分離構造の形成を試みた。Pdナノ粒子表面でのチオールのC−S結合の自発的開裂により生成した5.6±1.0 nm PdSxナノ粒子を種粒子として用いた。ジ-n-オクチルエーテル中、C18SH存在下、Co(acac)2・2H2Oを用いPdSxナノ粒子表面からCo9S8相を異方的に成長させることにより、明るい相の両端に暗い相を持つ平均サイズ~10 nm(長さ) 5 nm(幅)のピーナッツ形状ナノ粒子(ナノピーナッツ)が主生成物として、少量の硫化CoPdナノ粒子とともに生成した。高分解能TEM、XRDを用いた結晶構造解析から、ナノピーナッツはアモルファスPdSx/結晶性Co9S8/アモルファスPdSx構造を有しており,二つのヘテロ界面は硫化CoPdナノどんぐりの場合と同様に、Co9S8の(001)面に規定されていることが明らかとなった。高分解能TEM観察から、二つのナノどんぐりは,お互いのCo9S8相の結晶方向を揃えて向き合い融合することが分かった。また、チオールによる表面保護が弱い場合にCo9S8相の融合が進行しナノピーナッツが生成する一方、チオール保護が十分な場合はナノどんぐりの融合が抑制されると結論される。すなわち、単にC18SH添加量を変えることにより、ナノピーナッツとナノどんぐりを容易に作り分けることができる。




PdSxのseed-mediated成長法により生成した硫化PdCoPdナノピーナッツ



C18SH添加量変化によるナノピーナッツとナノどんぐりの作り分け

[Ref.] Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 1713.


異方性相分離Pd/γ-Fe2O3ナノ粒子の合成
5 nm Pdナノ粒子の1-オクタノール溶液にオレイン酸、オレイルアミン、Fe(acac)3を溶解後、180 ℃で加熱することにより、Pdナノ粒子表面にγ-Fe2O3相を異方的にエピタキシャル成長させたPd/γ-Fe2O3ナノ粒子の合成に成功した。




異方性相分離Pd/γ-Fe2O3ナノ粒子の(a)TEM像と(b)HRTEM像

[Ref.] JACS 2008, 130, 4210.