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はじめに


なぜ薄膜構造か?

 有機半導体を用いた有機ELディスプレーがすでに実用化され、有機薄膜トランジスタが盛んに研究されています。有機半導体を使ったこれらのデバイスの多くは、「薄膜」を利用しています。デバイスは、有機薄膜の中での電子や光のやりとりを用いて動作しているので、有機薄膜の電子・光を詳しく解析するためには、薄膜構造を知ることが必要になります。

 われわれは、有機固体や有機薄膜の電子構造を専門にして研究をしています。研究が進むにと薄膜構造がどうしても必要となってきました。これまでは単結晶構造を利用してきました。しかし、以下に述べるように、有機薄膜の構造は単結晶とは異なることがあります。これまでにも薄膜構造についての研究はたくさん行われてきました。しかし、構造の専門家が調べている「構造」とわれわれが必要としている「構造」が違うのです。そこで、自分で調べよう、ということになります。逆に言うと、電子構造や電子物性を解釈するのに必要十分な精度の「薄膜構造」を調べよう、ということで研究を始めました。

有機薄膜

 有機半導体の薄膜は、多結晶もしくはアモルファスです。この多結晶とは、大きさが数nmから数mm程度の小さな結晶子が集まったものと考えてよいでしょう。ここでは、多結晶の薄膜の結晶構造、つまりひとつひとつの結晶子の構造について考えます。

 単結晶の場合には、単結晶X線解析などの方法で結晶構造を解くことができます。しかし、この多結晶を構成している結晶子の構造を調べるのは、簡単ではありません。いくつか理由を挙げてみると、

  1. 結晶子の構造が単結晶とは異なり、しかもいろいろな構造がありうる。
  2. 結晶子の配向がそろっていない。
  3. 結晶性が低いために、回折実験で得られる強度が低い。

 最初のさまざまな構造をとることは、構造多形と呼ばれるもので、昔から単結晶でもフタロシアニンやペリレンなどで異なる構造の結晶形が知られています。 有機結晶は、分散力や静電相互作用などの弱い力で分子が集合したものなので、多くの準安定構造を取りうるのです。 これについては、面白い研究があります。擬モンテカルロ法でペンタセンの結晶構造をシミュレーションしたというものです。つまり、乱数で初期構造を作り、安定な結晶構造を探すというものです。これによると、とにかくたくさんの安定構造(準安定構造というべきでしょう)が出てきたということです。薄膜になると、表面や基板の影響がありますから、単結晶とは違う準安定構造が存在することは容易に想像できます。

 二つ目の薄膜中の結晶子の配向、もしくは分子配向は、それ自体が大きな研究テーマです。これも分子や基板の種類に応じて、さまざまな実験方法が工夫されています。逆に言うと、まだ確立した実験方法はないといえます。


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