低温菌 Shewanella livingstonensis Ac10
0˚C~25˚C で良好に生育可能
低温誘導的にエイコサペンタエン酸 (EPA) を生産
低温で高い触媒活性をもつ低温活性酵素の宝庫 (Protease, Lipase など食品加工用酵素, 洗剤用酵素として有用)
ゲノム情報が利用可能 → プロテオーム解析, トランスクリプトーム解析
低温菌を宿主とした低温でのタンパク質生産システムの開発
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17618403?ordinalpos=4&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSumshapeimage_1_link_0

低温菌は極地の海洋や, 深海のような低温環境を好んで生育する極限環境微生物である. 低温菌はわれわれにとって極めて過酷である低温環境において, 独自の適応機構によって生育していると考えられる. 本研究では, 低温菌がいかにして低温環境に適応しているのかを明らかにすることを目指している. 同時に, 低温菌を宿主とした低温でのタンパク質生産システムの開発を目指している.

低温適応細菌の応用と環境適応機構の解明

南極海水由来の低温菌  Shewanella livingstonensis Ac10 の低温環境適応機構の

解明と応用

長鎖多価不飽和脂肪酸エイコサペンタエン酸の生理機能

2009年1月「Journal of Bacteriology 」にて発表)京都大学化学研究所 HP 「研究トピック」より

エイコサペンタエン酸, Eicosapentaenoic Acid (EPA)

エイコサペンタエン酸 (EPA) やドコサヘキサエン酸 (DHA) などの長鎖多価不飽和脂肪酸は健康食品として近年大きな注目を集めています。これらを含む青背の魚の摂取が奨励されたり、種々のサプリメントが開発されています。長鎖多価不飽和脂肪酸は生体膜を構成するリン脂質の成分として存在し、動物だけでなく、種々の微生物においても重要な役割を担っています。私達は EPA を生体膜成分として含有する海洋性細菌 Shewanella livingstonensis Ac10 を用いて研究を進め、EPA の新しい生理機能を見いだしました。

 まず本菌において EPA の生合成を担う遺伝子群を同定し、これらを破壊することで EPA を合成できない変異株を取得しました。得られた EPA 欠損株は、本菌にとって比較的高い温度である 18℃においては野生株と同様に生育しましたが、4℃においては生育が著しく阻害されていました。 このことから EPA が本菌の低温での生育において重要な役割を担うことが明らかになりました。

さらに詳しく調べた結果、EPA 欠損株では細胞分裂が阻害されることや(図 1)、細胞の中に異常な膜系が形成されることが明らかになりました(図 2)。さらに膜タンパク質の組成を解析した結果、EPA の欠損によって特異的に量が変動するタンパク質が見いだされました。また、特定の膜タンパク質を強制的に高生産することによって、EPA 欠損株の生育が回復することも見いだしました。これらの結果は、生体膜に含まれる EPA 含有リン脂質が特定の膜タンパク質の機能発現において重要な役割を担うことを示しており、それらの間に特異的な相互作用のあることが強く示唆されます。

(図 1)EPA 欠損による細胞分裂阻害

S. livingstonensis Ac10 Rif

EPA 欠損株

(図 2)EPA 欠損による細胞内の異常な膜形成

S. livingstonensis Ac10 Rif

EPA 欠損株

「低温菌を宿主とした低温でのタンパク質生産システムの開発」

“Construction of a low-temperature protein expression system using a cold-adapted bacterium, Shewanella sp. strain Ac10, as the host., Appl Environ Microbiol. 2007 Aug;73(15):4849-56.”

タンパク質研究において、目的タンパク質の大量生産は避けては通れない課題であり、従来の大腸菌や酵母、バキュロウィルスなどを用いた異種タンパク質生産システムでは困難とされる熱安定性の低いタンパク質や封入体を形成しやすいタンパク質を効率的に生産するタンパク質生産システムの開発が求められています。 本研究では、 0˚C 付近でも良好に生育する南極海水由来の好冷微生物をタンパク質生産用宿主として利用することで、低温で効率のよいタンパク質の高生産システムの構築を目指しています。

「タンパク質低温生産システムの開発」

  1. S. livingstonensis Ac10 のゲノム情報

  2. 低温で高発現する遺伝子のプロモーター配列を獲得

  3. タンパク質発現ベクターに導入

  4. 外来遺伝子 (熱安定性の低いタンパク質, 宿主に毒性を示す    タンパク質, 従来の生産系で生産が困難なタンパク質) を導入

  5. S. livingstonensis Ac10 を宿主として, 0~25˚C でタンパク質

    生産

Construction of the plasmids for the promoter assay. rep, replication-related genes; mob, mobilization-related genes; oriV, replication origin; Kmr, kanamycin resistance gene; Smr, streptomycin resistance gene.

Appl Environ Microbiol. 2007 August; 73(15): 4849–4856.