梶研究室

準平面型の骨格を用いた革新的有機半導体材料開発に成功

この研究成果は、2014年4月24日にAngewandte Chemie International Edition誌にオンライン公開されました。
 物質創製化学研究系 構造有機化学研究領域の若宮淳志准教授、西村秀隆さん、村田靖次郎教授、環境物質化学研究系 分子材料化学研究領域の福島達也助教、梶弘典教授らの研究グループは、独自に設計した準平面型の骨格を用いて、電荷輸送特性に顕著な異方性を示す、革新的な有機半導体材料の開発に成功しました。

 有機エレクトロニクス分野における共通の課題の一つに、これらの素子内で効率的に電気を流す優れた有機半導体材料の開発が挙げられます。限られた大きさをもつ有機分子を用いて素子内で高い電荷輸送特性を実現するためには、固体状態での分子の配向を制御することが重要となります。従来の有機半導体材料としては、結晶性の材料には「強固な平面型」の化合物が、非晶質の材料には「ねじれたプロペラ型」の化合物が用いられてきました。これまで、結晶での分子の配向と電荷輸送特性の相関関係に関する研究は進んできていますが、有機太陽電池や有機EL素子で用いられる非晶質膜中では、分子がどのように並び電荷輸送特性に影響を及ぼしているのかは依然不明確であり、分子設計指針が立てにくいという状況にありました。
 本研究グループは、固体状態での分子の配向制御を指向した独自の骨格として「準平面型」の構造をもつ有機半導体材料を設計・開発しました。これらの分子は準平面型構造に起因して、結晶中で分子が1次元方向に完全に重なった形で並ぶことがわかりました (図1)。

図1 有機半導体材料の基本骨格として、「準平面構造」という新たな分子の形を提案。


 この分子配向を反映して、結晶では電荷の移動度に大きな異方性が観測されました。さらに、この分子は結晶中だけでなく非晶質膜中でも、電荷輸送特性に大きな異方性を示すことを見出しました (図2)。測定の結果、準平面型構造をもつ分子は非晶質でも基板に垂直方向に結晶での配向をある程度保っていることが明らかとなり、これにより高い電荷移動度を示すことがわかりました。

図2 準平面構造により、一次元方向に分子が配向。非晶質膜でも電荷輸送特性の異方性を観測。

 この発見により、これまで不明確であった非晶質性有機半導体材料開発の分子設計に新しい指針を与え、高い電荷輸送特性をもつ有機半導体材料開発に道を拓くものと目されます。また、準平面構造を用いた有機半導体材料開発を進めることにより、基板に垂直方向に高い電荷輸送特性が必要とされる有機EL素子や有機太陽電池の飛躍的な高効率化の実現につながることが期待されます。
この研究成果は、日刊工業新聞(5月1日 15面)に掲載されました。

研究プロジェクトについて

 本研究は、京都大学化学研究所「化研らしい融合的・開拓的研究助成」により助成を受けて行われました。

 また、本研究の一部は、JST戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「太陽光と光電変換機能」領域の一環として進めたものであり、大阪大学の佐伯昭紀助教、理化学研究所の尾坂格上席研究員らの協力を得て行われました。

 単結晶X線結晶構造解析および2D-GIXD測定はSpring-8のBeam Line BL38B1およびBL19B2にてそれぞれ行われました。

Wakamiya, A.; Nishimura, H.; Fukushima, T.; Suzuki, F.; Saeki, A.; Seki, S.; Osaka, I.; Sasamori, T.; Murata, M.; Murata, Y.; Kaji, H., On-Top π-Stacking of Quasiplanar Molecules in Hole-Transporting Materials: Inducing Anisotropic Carrier Mobility in Amorphous Films, Angewandte Chemie International Edition, DOI: 10.1002/anie.201400068 (2014).