強磁性半導体GaMnAsにおけるフェルミ準位の位置とバンド構造を系統的に解明 (田中グループ)
 高精度のエッチング手法と共鳴トンネル分光法を組み合わせたユニークな方法を 開発し、様々な強磁性半導体GaMnAs試料において、フェルミ準位の位置とバンド 構造を系統的に明らかにすることに成功しました。特にGaMnAsのフェルミ準位の 位置は、これらの材料系における強磁性発現機構を理解する上で極めて重要であ り、その解明が切望されてきました。得られた結果は、今まで10年以上にわたっ て一般的に受け入れられてきたこれらの系のバンド構造の理解とは大きく異なっ ており、今後これらの材料系の研究を進める上で、また、これらの材料系を用い た次世代スピントロニクス素子を実現する上で、重要な指針になると期待されま す。 本研究成果は英国科学誌ネイチャー・フイジックス(2011年2月6日Online) に掲載されました。  Shinobu Ohya, Kenta Takata and Masaaki Tanaka “Nearly non-magnetic valence band of the ferromagnetic semiconductor GaMnAs” Nature Physics, published online on 6 February, 2011. (DOI 10.1038/NPHYS1905)
URL: http://www.nature.com/nphys/journal/vaop/ncurrent/full/nphys1905.html



絶縁体におけるスピンゼーベック効果の発見(齊藤グループ、前川グループ
 熱流からからスピン流(電子スピン角運動量の流れ)が生成される現象「スピンゼーベック効果」が磁性絶縁体においても存在する ことを発見しました。更に、スピンゼーベック効果と固体中の量子相対論効果(逆スピンホール効果)を組み合わせることによって、従来 は不可能だと考えられていた絶縁体から熱電発電が可能であることを示しました。本研究成果によって、熱伝導によるエネルギー損失が小 さい絶縁体を熱電変換素子に利用できるようになり、熱電変換素子の設計自由度や設置可能場所の拡大、及び環境に配慮した電力技術開発 への貢献が期待できます。 本研究成果は英国科学誌「Nature Materials」のオンライン版(2010年9月27日付)に掲載され、日刊工業新聞、日経産業新聞、読売 新聞(夕刊)等で紹介されました。 K. Uchida, J. Xiao, H. Adachi, J. Ohe, S. Takahashi, J. Ieda, T. Ota, Y. Kajiwara, H. Umezawa, H. Kawai, G. E. W. Bauer, S. Maekawa, and E. Saitoh, “Spin Seebeck insulator”Nature Materials 9 (2010) 894 - 897.



絶縁体中へのスピン流及び電気信号伝送に成功 (齊藤グループ、高梨グループ、前川グループ)
 モット絶縁体にスピン流を注入し、長距離伝搬させることに成功しました。更に、この効果により絶縁体も電気信号を伝送で きることを示しました。これまで絶縁体中のスピン流を利用する方法はありませんでしたが、固体中の量子相対論効果(スピンホール効果) および金属とモット絶縁体界面での交換相互作用を用いることで初めて可能となりました。 本研究成果は英国科学誌「Nature(ネイチャー)」(2010年3月11日付)に掲載されるとともに、毎日新聞全国版朝刊一面、河北新報 朝刊トップ記事、等で紹介されました。 Y. Kajiwara, K. Harii, S. Takahashi, J. Ohe, K. Uchida, M. Mizuguchi, H. Umezawa, H. Kawai, K. Ando, K. Takanashi, S. Maekawa, and E. Saitoh,“Transmission of electrical signals by spin-wave interconversion in a magnetic insulator”Nature 464 (2010) 262-266.



共鳴トンネルスペクトロスコピーによる強磁性半導体GaMnAsの価電子帯構造の解明(田中グループ)
 強磁性半導体GaMnAsの超薄膜を量子井戸として2重障壁共鳴トンネルダイオード構造を作製し、共鳴トンネルスペクトロスコ ピーというユニークな手法を用いてGaMnAsの価電子帯構造とフェルミ準位の位置を明らかにしました。GaMnAsのフェルミ準位の位置 についてはここ数年論争がありましたが、従来のモデルで考えられているような価電子帯の中ではなく、禁制帯中の不純物バンド中 に存在すること、共鳴トンネル効果によりトンネル磁気抵抗が明瞭に増大する現象などを実験的に示しました。 本研究成果は米国物理学会論文誌フィジカル・レビュー・レターズに掲載されました。 Shinobu Ohya, Iriya Muneta, Pham Nam Hai, and Masaaki Tanaka. physical Review Letters 104, 167204 (2010).



MnAs金属ナノ微粒子で長いスピン緩和時間を観測(田中グループ)
 GaAs半導体マトリックス中に分散する六方晶の結晶構造をもつ強磁性金属MnAsナノ微粒子(直径〜5 nm) を含む単電子スピントランジスタ構造を作製し、微粒子における極めて長いスピン緩和時間(10μs)(μs=マイクロ秒) を観測しました。この値はこれまで報告された金属ナノ微粒子のスピン緩和時間として最も長く、最近報告されたCo微 粒子のスピン緩和時間より2桁(約100倍)、バルク金属と比べると7桁(約10,000,000倍)も長い値です。この成果は、 強磁性微粒子の超高密度スピンメモリや再構成可能なスピントランジスタ等、次世代のスピントロニクス・デバイスへ の応用につながると期待されます。  本研究は英国科学誌ネイチャー・ナノテクノロジーに掲載されたほか、日刊工業新聞ほかさまざまなメディアで報道されました。  Pham Nam Hai, Shinobu Ohya, and Masaaki Tanaka. Nature Nanotechnology, published online on July 4, 2010 (DOI 10.1038/NNANO.2010.130.)



電気・磁気変換の新原理「スピン起電力」の実現に成功 −ナノデバイスにおける新しい電磁気学と「超」巨大磁気抵抗効果の発見− (田中グループ&前川グループ)
 田中グループ、前川グループおよび米国マイアミ大学S.E. Barnesの研究グループは、 強磁性体MnAsのナノスケール微粒子を含む磁気トンネル接合において静磁場を印加するだけ で起電力が発生する「スピン起電力」効果を観測しました。本研究は、1831年に発見された 電磁気学の基本法則の1つであるファラデーの電磁誘導の法則が成り立たない実験結果を初 めて明瞭に示したものであり、このような磁性ナノ構造で観測される量子力学的なスピンの 効果を説明するためには、ファラデーの電磁誘導の法則を拡張する必要があることを示唆し ています。さらにこの「スピン起電力」により、100,000%を超えるきわめて大きな磁気抵抗 効果を実現しました。これにより、磁気エネルギーから電気エネルギーへの効率的な変換が 可能になり、新しいタイプの電池(スピン電池)や超高感度磁気センサーとしての応用が期待されます。
 本研究は、英国科学誌ネイチャー」(2009年3月8日Onlineおよび本誌3月26日発行、 Nature 458, 489-492 (2009))に掲載され、読売新聞、日刊工業新聞、化学工業日報、日本経済新聞 などで報道されました。



強磁性半導体における磁性原子間の相互作用の解明(藤森グループ&田中グループ)
 藤森グループと田中グループは原子力機構量子ビーム応用 研究部門と共同で、SPring-8の放射光を用いたX線磁気円二色性の測定により, 強磁性半導体ガリウムマンガン砒素(Ga1-xMnxAs)中のマンガン(Mn)原子間の磁気 的相互作用を調べることに成功しました.半導体の格子間位置にはいった一部のMn原 子が,強磁性を担うガリウム(Ga)を置換したMn原子に反強磁性的に結合して,強磁 性特性を低下させていることがわかりました.この結果は,より高機能の強磁性半導 体材料の開発に重要な指針を与えるものです.
 本研究は、Phys.Rev.Lett.100 (2008)247202に掲載され,化学工業日報でも紹介されました。



純スピン流による磁化反転制御に成功(大谷グループ)
 大谷グループは、強磁性ナノピラーを銅細線で橋渡しした面 内スピンバルブを大気暴露せずに一度のプロセスで作成する手法を開発しました。こ のため、スピン注入効率が改善され、従来の10倍にも及ぶ巨大な非局所スピンバルブ 信号を得ることが可能となりました。さらに、この面内スピンバルブ素子を用いて純 スピン流による磁化反転を再現性良く制御することに成功しました。この成果は、ス ピン注入源からサブミクロン隔てた位置の強磁性ナノドットの磁化を電荷を運ばない 純スピン流で反転することができるため、スピントロニクスの高集積化の要素技術と して期待されています。
 本研究は、Nature Physics 4 (2008)851に掲載されました。関連記事が、日経産業新聞に2008年10月9日付で新聞記事が 出ました。タイトルは「電子のスピンで反転」です。



スピンゼーベック効果を発見(齊藤グループ&前川グループ)
 齊藤グループと前川グループは共同で、熱流からスピン流 及びスピン圧(スピン流の駆動力)が生成される現象を発見しまし た。Ptにおける強い逆スピンホール効果を利用したスピン圧検出構造 をNiFe薄膜上に作成し、この薄膜に温度勾配を加えることでス ピン圧が生成されることを実証しました。今回の成果は、スピン流 の熱的生成素子作成へ応用できるのみならず、スピンに依存した伝 導電子のエントロピーを測定する手法としても利用できます。 本研究は、Nature 455 (2008) 778に掲載されました。



スピンホール効果によるスピン緩和変調効果を発見(齊藤グループ&前川グループ)
  齊藤グループと前川グループは共同で、スピンホール効果 とスピントルク効果の相乗効果により、薄膜のスピン緩和が電気的 に変調されることを発見しました。NiFe/Pt複合膜のPt層に電流を流しながら強磁性共鳴スペクトルを測定したところ、ス ピンホール効果によりスピン流が生成され、このスピン流がNiFe層の磁化にスピントルクを与えることで緩和が変調されるこ とを実証しました。今回の成果は、スピン緩和の電気制御の原理を 与えるのみならず、スピン流の定量的測定の手段を与えます。 本研究は、Phys.Rev.Lett.98 (2008) 036601に掲載されました。


金の室温巨大スピンホール効果の観測に成功(高梨グループ&前川グループ)
 高梨グループおよび前川グループは共同で、磁石の性質を 持たない金 (Au)の中で電流によってスピン流を制御する「スピンホー ル効果」の観測に成功しました。共同研究グループは、垂直磁化を有 する鉄白金 (FePt)とAuを組み合わせたナノサイズ素子を作製し その伝導特性を調べたところ、これまでの報告より100倍以 上 大きいスピンホール効果の電気信号が検出されることを実証 しました。今回の成果は、固体磁気記憶素子における新しい読み出 し手法や磁気センサ、さらには磁石を用いずにスピン流を生成する 新しいスピンエレクトロニクス素子として幅広い応用展開が期待さ れます。 本研究成果は、Nature Materials 7 (2008) 12に掲載され、日本経済新聞や日刊工業新聞(2008年1月14日付)でも紹介されました。




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平成19〜22年 文部科学省科学研究費補助金 特定領域研究「スピン流の創出と制御」
領域略称名:スピン流 領域番号:469  領域代表者 高梨弘毅