今年度は以下の4研究室が合同で行っています。
化学研究所・物質創製化学研究系・精密無機合成化学研究領域 (島川 研究室)
化学研究所・附属元素科学国際研究センター・無機先端機能化学研究領域 (高野 研究室)
化学研究所・材料機能化学研究系・ナノスピントロニクス研究領域 (小野 研究室)
低温物質科学研究センター・低温機能開発研究部門 (寺嶋 研究室)

2006 年度
第1回 (5/12) 谷川 博信 (小野研、D1)
Tunable high-frequency band-stop magnetic filters, B. Kuanr, et al., Appl. Phys. Lett. 83, 3969 (2003).

強磁性体をマイクロストリップ上に加工し、バンドストップフィルターを作製し、 その特性を評価した論文です。原理は非常に簡単で、磁性のどの教科書にも書かれて いる『強磁性共鳴』で説明することができます。利点としては、遮断される周波数が 外部磁場によって制御することが可能であることが挙げられる。 また、上記のバンドパスフィルター動作には常に外部磁場が必要であり、消費される エネルギーが大きいことが欠点として挙げられる。参考文献として、外部磁場を必要 としないバンドストップフィルターの提案とそのシミュレーションを行った論文も紹 介します。

第1回 (5/12)岡 研吾 (高野研、M2)
Phase separation in A site ordered perovskite manganite LaBaMn2O6 probed by 139La and 55Mn NMR, Y.Kawasaki, et al., Phys. Rev. Lett. 96, 037202 (2006).

LaMnペロブスカイトはAサイト置換によるCMRで非常に有名な物質系である。 そして、その特異な物性はミクロスコピックには二重交換相互作用という概念で 説明されてきた。 しかし、それ単独でこの不思議な物性を説明しきることは不可能で、そこでマクロにMnの秩序状 態が分離するPhase Separationという概念が導入された。 本論文はAサイトが層状にオーダーしたLaBaMn2O6とランダムなLa0.5Ba0.5MnO3に おけるMnの 状態を調べたところ、奇妙なことに均一なオーダペロブスカイトでは相分離が起 こっているが、不 均一なランダムでは均一な状態であることがわかった。 この実験事実からMnペロブスカイトにおける相分離はAサイトのランダムネスに よって引き起こさ れるものではなく、もっと本質的なものであるということがわかった。

第2回 (5/19)堀内 大輔(高野研、M2)
Electronodes with high Power and high Capacity for Rechargeble Lithium Batteries, K. Kang, et al., SCIENCE 311 17.(2006).

現在のユビキタス社会において不可欠なノートパソコン、携帯電話といったモバ イルツールの電源として今最も使用されているのはリチウムイオン電池である。 リチウムイオン電池は従来の電池と比較して、軽量かつ大容量である。陽極の素 材としては様々な物質が研究されてきているが、最新の素材としてイオン交換 法、及び固相反応で合成したLi(Ni0.5Mn0.5)O2を紹介する。

第3回 (5/26)島川 祐一 (島川研、教授)
Electric-pulse-induced reversible resistance change effect in magnetoresistive flms, S.Q. Liu, et al.,Appl. Phys. Lett. 76, 2749 (2000).

抵抗変化型不揮発メモリ(RRAM)が注目を集めています。そこで今回は、RRAMと は何か、何故今RRAMが注目されるのか、という事から初めて、RRAM研究の現状を 大雑把に概観しようと思います。添付の論文はRRAM研究の火付け役となった論文 で参考文献の一つです。今回はこの一つの論文に拘らず、またあまり細かい議論 には深入りせずに、RRAMとして機能すると考えられている抵抗変化としてどのよ うな現象が報告され、どういった機構が提案されているのか、を紹介しようと思 います。

第3回 (5/26)齊藤 高志 (高野研、助手)
Construction of Copper Halide Networks within Layered Perovskites. Syntheses and Characterization of New Low-Temperature Copper Oxyhalides, T. A .Kodenkandathm, et al., Inorg.Chem. Lett. 40, 710 (2001).

比較的低温でのトポタクティックな反応によって、ペロブスカイト関連構造中に 銅ハライド(Cu-X; X=Cl, Br)ネットワークが形成された例を紹介する。具体的 には、 例えばDion-Jacobson系列のRbLaNb2O7がCuCl2が325℃と反応することで (CuCl)LaNb2O7が得られている。ここではホスト化合物の基本骨格を損なうことなく Rb層がCuCl層によって置換されている。 このような反応は物質設計の観点から非常に有意義であり、今後同様の手法を 用いた機能性材料の設計・開発が期待される。 主論文に加え、様々な層状ペロブスカイト化合物に見られるイオン置換、有機物 置換、 剥離などの諸反応について概観する。

第4回 (6/1)姫野 敦史 (小野研、D3)
Negative index of refraction in optical metamaterials, V. M. Shalaev, et al., Optical Letters. 30, 3356 (2005).

従来の常識ではあり得ない特性をもつ「左手系メタマテリアル」が注目されていま す。 今回の雑誌会では左手系メタマテリアルとはどのようなものか。 今後、どのような応用が期待されているのかについて紹介したいと思います。 本論文として、2005年に光通信で用いられる赤外線領域において、 負の屈折率をもつ左手系メタマテリアルを実験的に実現することに成功した論文を紹 介します。

第5回 (6/16)小林 研介 (小野研、助教授)
Strong coupling of a single photon to a superconducting qubit using circuit quantum electrodynamics, A. Wallraff, et al., Nature. 431, 162 (2002).

励起したイオンを、共振器(内側が鏡で覆われている箱)に閉じ込めると 励起状態の寿命の制御が可能となります。このような現象を研究する分野を cavity QED(共振器量子電磁気学)と呼び、原子物理や量子光学の分野 における主要なトピックスの一つとなっています。  本論文は、固体素子を用いて初めてcavity QEDの実験を行った画期的な 研究です。この論文を題材として、cavity QEDの基本的なアイデア (決して難しいものではありません)や、何を目指しているのかを、 分かりやすく説明したいと思います。

第5回 (6/16)西村 浩輔 (島川研、D1)
Strongly correlated electron behavior in ROs4Sb12 (R = Ce, Pr) filled skutterudites, E. D. Bauer, et al., Physica B. 312, 230 (2002) .

スクッテルダイト(T4X12)は、10年ほど前から熱電材料として注目さ れ、研究されてきました。数年前から、Xサイトに囲まれた間隙に種々 の希土類元素を埋め込むことで、希土類原子の持つf電子とX原子の持つ p電子とに電子相関がうまれ、様々な物性を示すことに興味が集まって います。 今回は、UやCeを含まない重い電子系で超伝導を発現する事がわかった PrOs4Sb12を中心に概要を示せればと思います。添付の論文は、 PrOs4Sb12の超伝導を発見したグループの論文です。

第6回 (6/23)Michael Picazo Delmo (小野研、M2)
Quantum Criticality, P. Coleman, et al., Nature. 433, 226 (2005).
Quantum criticality in ferromagnetic single-electron transistors, S. Kirchner, et al., PNAS. 102, 18824 (2005).

自然は相転移に満ちている。水から氷への結晶化・強磁性体における電子スピンの整 列・低温における金属での超伝導の出現、さらに宇宙初期の時空の形成まで、これら はすべて相転移が関わるものである。氷の融解は他の相転移と同様に、温度上昇に伴 う分子の熱運動によって引き起こされる。しかし、最近の研究により熱運動ではなく ハイゼンベルクの不確定性原理による量子ゆらぎによる相転移の存在がわかってき た。この相転移を量子相転移とよび、熱運動が抑えられている極低温(T = 0 K 〜 数十mK)において観測することができる。しかし、この現象の本質は未だに解明され ておらず、これに関する理論・実験研究が活発に行われている。今回の雑誌会ではい くつかの論文を参照して量子相転移の基礎と関連する様々な現象を紹介する。

第6回 (6/23)山本 真平 (高野研、助手)
Subsurface Raman Imaging with Nanoscale Resolution, N. Anderson , et al., Nano Letters. 6, 744 (2006) .

ナノスケール物体と電磁波との間の相互作用の理解は極めて重要であるが、回折限界のため通常の光学系では充分な解像度での評価は困難である。走査型近接場顕 微鏡の実現により、回折限界を遙かに上回る極めて高い空間分解能でのイメージングや分光が可能になった。本論文は、走査型近接場顕微鏡技術とtip-enhanced Raman spectroscopyを組み合わせることにより、表面下(表面に出ていない)の物体に対して分光およびイメージングを試みたものである。SiO2媒体中に埋もれたcarbon nanotubeを用いて測定を行い、約30nmの空間分解能での分光イメージングが可能であることを報告している。

第7回 (6/30)河合 正徳 (島川研、M2)
An aluminium nitride light-emission diode with a wavelength of 210 nano meters,Y. Taniyasu et al., Nature. 441, 325 (2006).
A bug-beating diode, A.Khan, et al., Nature. 441, 299 (2006).

【世界最短波長の遠紫外発光ダイオードの動作に成功!!!】  (遠)紫外光はその高い分解能力のため、バクテリアやウイルスの殺傷、ダイオ キシンやPCBなどの有害物質分解など、生物(病理)や環境保全の観点から、重要 視されている。また、波長が非常に短いため、微細加工技術、微粒子の検出な ど、テクノロジーの分野でも利用される。しかし、現在、紫外領域の光源は水銀 ランプやガスレーザーなどしかない。水銀は有害性があり、ガスレーザーはガス の交換・大型・低効率といった実用上の問題を抱えている。  今回紹介する論文は、NTTの研究により「窒化アルミニウムを使用して世界最 短波長210nmの遠紫外発光ダイオードの動作に成功した」というものである。固 体発光素子である発光ダイオード(LED ; Light Emitting Diode)は、ガス光源に 比べはるかに効率的で無害、小型と、良い点ばかりであり、このAlN遠紫外発光 ダイオードの開発は、紫外光の有用性を考えれば、幅広い分野において革命的で あることは言うまでもない。  当日は、LEDの発光メカニズム・構造と合わせて、このAlN‐UV-LEDの開発のポ イントおよび現段階での性能を紹介する。

第7回 (6/30)玉田 芳紀 (小野研、M2)
Production and Characterization of Single-Crystal FeCo Nanowires Inside Carbon Nanotubes, A. L. Elias , et al., Nano Letters. 5, 467 (2006) .

FeCoは3d遷移元素合金において最も大きな飽和磁化を有し情報記録媒体材料とし ても注目されるが、その磁気異方性が小さいことにより応用には至っていない。 今回、筆者らはフェロセン(FeCp2)とコバルトセン(CoCp2)を用いることによっ て、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT) の中にFeCoのナノワイヤーを 形成することに成功した。このFeCoナノワイヤーはカーボンナノチューブに囲ま れているため空気中で酸化されず、さらに MWCNT軸方向と(110)面が平行である 単結晶となっていることがHRTEMやFFTによって明らかになった。また、室温で 900 Oeという保磁力を示し、大きな磁気異方性が生じていることが示唆された。 これはFeCo合金の高密度記録媒体への応用の道をひらく結果として注目される。 今回は微粒子やナノワイヤーの特徴である「表面」の効果や、磁気異方性の起源 なども絡めながら論文を紹介できたらいいな、と思っています。

第8回 (7/7)白木 宏 (島川研、M1)
Evidence for internal resistive barriers in a crystal of the giant dielectric constant material : CaCu3Ti4O12, J. Liet , et al., Solid State Commun. 135, 260 (2005) .

CaCu3Ti4O12(CCTO)は中心対称を持つ空間群Im-3に属すため、強誘電体にはなり得 ない。ところが、CCTOは非常に高い誘電性(ε’>10^3)を持ち、100K-600Kの広い温 度範囲でほとんど誘電率が変化しないという特異な物性を示すことが2000年に報告さ れて以来、その起源についての研究が活発に行われている。現在、高い誘電率が出る 理由として、電気伝導度の低い層が存在し、この層が高い誘電率を持つためであると 考えられている。この層は、電極と試料の間に生成する空乏層、grain boundary、中心部に比べて酸素欠陥が少ない表面層、結晶中の双晶境界などであると 考えられているが、未だにどれが支配的かは判明していない。  そこで当日は、CCTOが非常に高い誘電率を示し、温度依存性がほとんどないという 特異な性質を示す起源についての報告例をいくつか紹介したいと思います。

第8回 (7/7)小松 寛 (島川研、M1)
Metallic ferromagnet with Square-Lattice CoO2 sheets , J. Matsumoto , et al., Phys. Rev. Lett. 93, 16702 (2004) .

K2NiF4型構造の酸化物はMO2層の積み重ねから成る二次元的な電子構造を特徴とし、 高温超伝導や新奇なスピン・電荷・軌道秩序の舞台となっていることから重要な存在 である。しかしながら単結晶作製が立方ペロブスカイトに比べてはるかに難しく、こ れまでにSr2MO4(M=Ti ~ Fe)が報告されているものの、単結晶が合成できるのは M=Mnのみである。 本論文ではパルスレーザー堆積法(PLD)を用いることにより、これまで多結晶の形 でさえ合成されたことのないSr2CoO4の単結晶薄膜を作製することに成功した。 Sr2CoO4は非常に高いキュリー温度250 Kの強磁性と金属的伝導を同時に示す。すなわ ち、Sr2CoO4はK2NiF4型の化合物では初めて発見された二次元金属強磁性体である。

第9回 (7/14)東 正樹(島川研、助教授)
Spin Singlet Formation in MgTi2O4: Evidence of a Helical Dimerization Pattern, M. Schimidt, et al., Phys. Rev. Lett. 92, 056402 (2004).
Spin Gap in Tl2Ru2O7 and the possible formation of Haldane chains in three dimentional crystals , S.Lee, et al., Nature Materials. 5, 471 (2006).

「軌道整列が生み出す一次元磁性」 パイロクロア構造、スピネル構造を持つ反強磁性体では、磁性元素は、正四面体が立 体的に連なったパイロクロア格子を組んででいる。ここでは強い磁気フラストレーシ ョンがのために、反強磁性秩序が押さえられる。現実の物質では、結晶構造を歪ませ ることで対称性を下げてフラストレーションを解き、有限温度で長距離秩序を起こす ものが多い。しかしながら最近、こうした結晶ひずみの結果軌道整列が起こって、一 次元的な磁気相互作用がを持つようになる系が相次いで見つかった。今回紹介する MgTi2O4(スピネル)、Tl2Ru2O7(パイロクロア)では、それぞれS=1/2の交代ボンド 鎖、S=1の一次元鎖が実現していて、どちらもスピンギャップを持つ。パイロクロア格 子や一次元反強磁性体のイントロダクションを含めて、これらの物質の構造変化と磁 性の関連を説明する。時間があれば、2次元的な結晶構造でありながら、軌道整列の ためにS=1/2の一次元的な磁気相互作用を持ち、スピンパイエルス転移を起こすTiOCl についてもふれたい。

第9回 (7/14)小野 輝男(小野研、教授)
Femtosecond Photomagnetic Switching of Spins in Ferrimagnetic Garnet Films, F. Hansteen, et al., Phys. Rev. Lett. 95, 047402 (2005).

光と磁性体の間にも相互作用は働きます。例えば、光の偏向面が磁化によって回 転するファラデー効果(反射の場合はカー効果と呼ばれます)を知っていると思 います。この逆に、光によって磁化を制御することは可能でしょうか?今回紹介 する論文では、フェムト秒レーザーパルスによってこれが可能なことを実験的に 示しています。

第10回 (7/21)笠井 奈緒子(島川研、M1)
Intelligent Window Coatinga: Atomospheric Pressure Chemical Vapor Deposition of Tungsten-Doped Vanadium Dioxide, T.D. Manning, et al., Chem. Mater. 16, 744 (2004).

住宅全体の熱の出入りのうち,冬季に窓から流出する熱の割合は48%,夏季に流 入する割合は71%に達する。そのため,窓に熱の流入・流出制御機能をもたせる ことができれば,冷暖房の効率化などが期待され,現在,サーモクロミック材料 を利用した調光ガラスの開発が行われている。 サーモクロミック材料の代表例である二酸化バナジウムは,Tc=68℃付近で金属- 半導体転位(MST)を起こし,それに伴い光学特性が大きく変化する。また,金 属イオンをドープすることによりTcが増加あるいは減少する。 本論文は,APCVD法を用い,タングステンをドープした二酸化バナジウムの薄膜 をガラス基板上に作製することに成功し,また,そのTcが42℃にまで減少するこ とを確認したものである。

第11回 (7/28)矢野 邦明(小野研、M2)
A single-photon turnstile devise, J.Kim, et al., Nature. 397, 500 (1999).

光を用いた情報通信において、究極的には光子一つにおいて 記録、および通信をおこなうことが求められます。 しかし、古典的な光源では単一光子を生成することはできず、 その生成には大きな注目が集まっています。 近年、微小トンネル接合における電子間のクーロン相互作用を 用いて電子を一つずつ規則的に輸送する素子が開発されていて 、これを単一電子ターンスタイル(turnstile:回転ドア)素子 と呼びます。今回の雑誌会では、このクーロンブロッケード効 果をpn接合に応用して、電子とホールを一つずつ活性層に注入 し、光子を一つずつ規則的に発生する素子の動作を実験的に確 認した論文を紹介いたします。

第11回 (7/28)坂井 舞子(島川研、M2)
Magnetic, dielectric and magnetoelectric properties of new family of orthorhombic multiferroic Eu1-xYxMnO3 manganites, V. Yu. Ivanov, et al., J. Magn. Magn. Mater. 300, 130 (2006).

近年,マルチフェロイクス材料は多くの研究の対象として注目を集めており,中でも強磁性強誘電体においては磁場によって誘電特性が大きく変わる (または電場によって磁性が大きく変化する)物質等の発見により,物性への興味にとどまらず商業的な利用が大いに期待されます。さらに,ME効果を持つ物 質の一つである希土類のorthorhombicマンガン酸化物RMnO3の興味深い物性はCAF相オーダーから変調したAF相へ磁気構造の変化に関係し ていることが提案されています。   これを受けて今回紹介するマンガン酸化物Eu1-xYxMnO3は,マルチフェロイクス材料の一つであることが発見され,母物質である EuMnO3にわずかにYを置換(x<0.1)するとIC相からCAF相にネール点以下で転移し,その一方x>0.2ではICからC/FE相 への転移が観測されました。 さらに磁化や分極の測定によって様々な相転移が見つかり,それぞれの相における磁性や誘電特性,ME特性などの興味深い違いについて紹介します。

第12回 (10/13)岡 研吾(高野研、M2)
Photocatalyst releasing hydrogen from water, K. Maeda, et al., Nature. 440, 295 (2006).
Overall water splitting on (Ga1-x Znx)(N1-x Ox) solid solution photocatalyst: Relationship between physical properties and photocatalyic acitivity, K.Maeda, et al., Jounal of Physical Chemistry B, 109, 20504 (2005).
 
近年の固体科学における大きな課題の一つとして可視光領域で高い活性を持つ光 触媒の開発挙げられる. 光触媒機能とは光によって価電子帯から伝道帯へ電子が励起された際に発生する 電子とホールによる酸化・還元のことであり,光によって水を分解する本多−藤 嶋効果は非常に有名である. そうやって水の分解で発生できる水素は次世代のクリーンエネルギーとして注目 されている. その光触媒としてはTiO2が代表的であるが,これは紫外光による反応であるため 実際の応用に関しては制限がかかることが多い. その解決法の一つとして注目されているのが光触媒の酸素を窒素で置き換えるこ とにより,バンドギャップを狭める方法である. しかしTiO2の酸素を窒素で置き換えることによりバンドギャップを狭くし,可視 光領域で活性を持たせる研究が行われているが,その置換はあまりうまく入って いない. 今回はTiO2ではなく,同じ構造を持つGaNとZnOからoxynitirideを合成し,それ を光触媒として用いることにより可視光領域で水の分解に成功した論文を紹介する.

第12回 (10/13)橋坂 (小野研、D1)
Observation of the e/3 Fractionally Charged Laughlin Quasiparticle, L. Saminadayar, et al., PRL. 79, 2526 (1997).

量子ホール状態にある電子系で、電子の電荷がe/3になるということを検出した論文 を紹介します。 この論文では "ショットノイズ" というサンプルの電気伝導度のゆらぎを測定する ことで、電流を担う粒子の電荷の大きさを直接に測定することに成功しています。 今回は量子ホール効果自体の説明や、なぜ分数電荷になるのかということについては 深入りせずに、どうやって分数電荷を検出したのかということに力点をおいてこの論 文を説明したいと思っています。


第13回 (10/20)山田 啓介(小野研、M1)
Magnetic-field tunability of the vortex translational mode in micron-sized permalloy ellipses: Experiment and micromagnetic modeling , K. S. Buchanan, et al., PRB. 74, 064404 (2006).

磁気円盤の磁区構造では、磁気渦(vortex core)構造という特徴的な構造をとることが知られています。 磁気渦構造はTranslation Modeという固有の運動モードを持ちます。  今回紹介する雑誌では、円盤ではなく楕円構造の磁気円盤を用いて、Translation Modeの共振周波数を検出しています。 さらに、磁場の印加方向によって、共振周波数を調整できることが示されています。磁場による共振周波数の依存性は、シミュレーションから求まるエネルギーポテンシャルの結果から説明できることが示されています。

第13回 (10/20)山田 幾也(高野研、PD)
「バルク単体金属ガラスは存在するか?」, J. Zhang, et al., Nature. 430, 332 (2004).

金属ガラス(アモルファス)の研究は、1960年のDuwezらによるAu-Siの発見に始まる。 金属ガラスは原子配列に周期性が無いことから、強度、耐腐食性に優れ、金属結晶に とは異なる磁気的性質を持つという特徴がある。1980〜90年代に、CaltechのJohnson や、東北大の井上らによって、Zr系合金やLa-Al-Ni系合金で数mmサイズの大きなバル ク試料が得られるようになり、現在では非常に盛んに研究されている。  しかし、合金には高温で相分離が起こりやすいという問題があるため、単体金属の ガラスが望まれる。Zhangらは、7GPa、1000℃で、XRDパターンにおいてブラッグピーク が消失したことから、Zrがアモルファスになるということを報告し、さらにWangらも、 同様の測定によって、同族のTiが高温高圧下でアモルファスになるという報告をして いる。しかし、最近、服部らにより精密な測定が行われ、ブラッグピークの消失は粒 成長によるものであり、ZrとTiのアモルファスを否定する報告がなされた。  合金ガラスについて概観した後、Zhang、Wangらの論文を紹介し、洗練された測定装 置・手法を用いることで判明したZhang、Wangらの誤りについて説明する予定である。

第14回 (10/26)矢野 邦明(小野研、M2)
Plasma formation and temperature measurement during single-bubble cavitaiton , David J.Flannigan, et al., Nature. 434, 52 (2005).

今回は、single-bubble sonoluminescence (SBSL)における気泡内の温度の測定に成 功した論文を紹介します。 SBSLでは、通常、特徴がない発光スペクトルが生じるので、このスペクトルからは、 気泡内の物理条件、あるいは化学過程に関する情報がほとんど得ることができませ ん。 しかし、本論文では、高濃度硫酸水溶液を用いて強い発光系列の観察に成功していま す。さらに、得られた発光スペクトルから気泡内部温度の見積もりを行い、 気泡内部において気体がプラズマ化していることを示しています。 雑誌会では「そもそもSBSLとは何か?」を含めて、私たちに身近な`泡`の不思議をお 話いたします。

第14回 (10/26) 井崎 学(松田研、D3)
Continuous quantum phase taransition, S.L.Sondhi, et al., New Jersey Rev of Mod phys. 69,315 (1997).

近年様々な分野で量子相転移と呼ばれる概念及び現象が現れている。 この相転移はよく知られた熱揺らぎによる秩序状態の破壊とは異なり、 絶対零度での相転移であり、磁場や圧力、ドーピングにより、量子揺らぎを 制御することで物理系の基底状態が変化させる転移である。 本論文ではこの概念を1次元Josephson-junction-arrayを用いて説明し、 量子ホール効果について量子相転移の観点から見たものである。

第15回 (11/9) 坂井 舞子(島川研、M2)
Magnetic Reversal of the Ferroelectric Polarization in a Multiferroic Spinel Oxide, Y. Yamasaki, et al., PRL . 96, 207204 (2006).

マルチフェロイック材料の研究は,近年産業への応用が期待できる大きなME効果やMD効果を有する物質の発見に伴い多くの関心 を集めています。マルチフェロ相が存在し,両方のオーダーが効果的な相関を持つ場合は相転移を引き起こす磁場あるいは電場において 巨大ME効果現象の発現が期待できるだけでなく,マルチフェロイックドメイン壁の相関という観点からも注目されています。  これまで報告されているTbMnO3やDyMn2O5などは反強磁性強誘電体ですが,それに対し今回紹介するスピネル型クロム酸化物 CoCr2O4は磁性と誘電特性に相関を持つ系で初めて自発磁化と強誘電性を併せ持つことが発見され,磁場印加により分極反転が 観測されました。このような磁性と誘電性に相関を持った興味深い物質の発見によって,今後のマルチフェロイクス材料に更なる発展 が期待されると考えられます。

第15回 (11/9) 玉田 芳紀(小野研、M2)
Superparamagnetic Fe2O3 Beads-CdSe/ ZnS Quantum Dots Core-Shell Nanocomposite Particles for Cell Separation , Desheng. Wang, et al., Nano Lett . 4, 409 (2004).

現在の癌治療研究において、正常な細胞と癌化した細胞の混合物からそれらを効率よく選り分け、分別することは大変重要なプロセスとなっている。 今回著者らは、γ-Fe2O3の超常磁性微粒子の表面に半導体微粒子(CdSe)群を固定し、さらにその表面に癌細胞抗体を修飾することに成功した。 この論文では、その微粒子を用いて癌細胞の磁気分離を実際に行い、発光による観測を行っていおり、これは微粒子が医療研究に応用される具体例 の一つである。今回は半導体微粒子の発光現象や癌の発生メカニズム、それに対する免疫系などの基本事項から発表したいと考えている。

第16回 (12/1) 笠井 奈緒子 (島川研、M1)
Template-Assisted Growth of Nominally Cubic (100)-Oriented Three-Dimensional Crack-Free Photonic Crystals , Chongjun. Jin, et al., Nano Lett . 5, 2646-2650 (2005).

フォトニック結晶は屈折率に光の波長と同程度の周期性がある光学材料であ り、光の制御・操作を可能にする技術として注目されている。簡便にフォトニッ ク結晶を作製する方法としてはコロイドの自己組織化を利用する方法があるが、 得られた結晶にはその光学特性に影響を及ぼすような欠陥が生じてしまう。  そこで現在、コロイドの自己組織化を利用して良質で大きな単結晶フォトニッ ク結晶を作製する研究が注目されている。本論文はパターン化された基板上にコ ロイド粒子を堆積させて欠陥のほとんどないフォトニック結晶を作製し、その光 学特性を評価したもので、フォトニック結晶のデバイスへの応用を期待させるも のである。

第16回 (12/1) Michael Delmo(小野研、M2)
Cobalt-Nanocrystal Superlattices Spin-Dependent Tunneling in Self-Assembled, C.T. Black, et al., Science . 290, 1131 (2000).

現在、ナノサイズのスピン依存電子デバイスの開発が盛んに研究されている。 特に、磁性ナノ粒子を用いたデバイスは注目を集めている。 この論文では、自己組織的二次元配列が可能なコバルト(Co)ナノ粒子(直径〜10 nm)を用いて、 「電極 / 多粒子 / 電極」からなる接合を作製し、スピン依存伝導を測定した。 20 K以下では、デバイスがスピン依存伝導を示しており、約10 %の磁気抵抗比を持っている。

第17回 (12/8) 近藤 浩太(小野研、M1)
Minimum Field Strength in Precessional Magnetization Reversal, C.H. Back, et al., Science . 285, 864 (1999).

現在、スピントロニクスデバイスの発展において、磁化反転はメモリーなどに応用で きる現象として注目されています。この磁化反転には、逆向きの磁場をかけて磁化反 転させるものや、スピン流を用いて磁化反転させるものなどさまざまな方法が用いら れています。 今回は、面内方向に単磁区化させた金属薄膜の磁化を歳差運動させ磁化反転に導くと いう論文を紹介します。著者らは、2 psという超高速磁場パルスを用い薄膜中の磁化 反転を実現させました。さらに、その磁化反転は184 kA/mという小さな磁場によって なされています。そして将来、この技術を磁気記録薄膜への磁気パターンの書き込み に利用したいと考えています。

第17回 (12/8) 堀内 大輔 (高野研、M2)
Materials for fuel-cekk technologies, Brian C.H.Steele, et al., Nature . 414, 15 (2001).

燃料電池はほとんど有害物質を出さない環境に優しいエネルギー源として長年研 究が行われてきた。本論文においては、燃料電池(Polymetric-electrolyte- membrane fuel cells)及び(Solid-oxide fuel cells)を各パーツに分けて、それ ぞれのパーツに課せられた使命と現状、その素材について紹介する。

第18回 (12/14) 小松 寛 (島川研、M1)
Low temperature metallic state induced by electrostatic carrier doping of SrTiO3 , H. Nakamura, et al., Applied Physics Letters . 89, 133504 (2006).

強相関電子系に特有の様々な電子相はキャリア濃度と密接に関係している。 これまでに、小さなキャリア濃度の変化が物性に大きな変化をもたらすということは分かっているが、 肝心のキャリア濃度をギリギリのところで制御するために必要な技術が、いまだに確立されていない。 本論文では、連続的にキャリア濃度を制御するためにFET(field-effect transistor)を用いて、 代表的なペロブスカイト型酸化物であるSrTiO3を舞台にこの手法を応用した。

第18回 (12/14) 井上 孝徳(小野研、M1)
Photocontrolled reversible release of guest molecules from coumarin modi fied mesoporous silica , Nawal Kishor Mal, et al., Nature. 421, 350 (2003).

現在薬物治療において、Drug Delivery System(DDS)は非常に注目されている新技 術のひとつである。DDSに求められる性能は大きく3つに分類され、徐放性、吸収改善、 そして標的指向化がある。現在のDDSは、武田薬品のリュープリンを代表として薬物 を体内でゆっくりと放出するものが主流である。これにより、薬物の投与・量・回数 が軽減し、副作用の低下が実現した。しかし、今後のDDSには、必要な患部のみに運 搬するターゲッティングがさらに求められており、外部からの刺激に対する生体側の 特異的な反応を利用する方法、あるいは熱・磁気・レーザー光・超音波などの物理的 な方法による薬物挙動の制御が盛んに試みられている。そこで、今回はメソ多孔性Si O2の出入口に光で自由に開閉できる有機分子を結合させ、化学物質の出入りを制御す ることに初めて成功した論文を紹介する。

第19回 (12/22) 河合 正徳(島川研、M2)
Impact of misfit dislocations on the polarization instability of epiraxial nanostructured ferroelectric perovskites , Ming-Wen Chu , et al., Nature materials . 3, 87 (2004).

半導体や酸化物など、デバイス化を視野に入れた物質の物性評価において、欠陥及びそれによって生じる歪場は致命傷となる。 特に、今日ではナノスケールでの物性評価が進められているが、歪場の存在は避けては通れない状況になっている。  本論文は、強誘電体のサイズ効果にフォーカスし、PZT中の転位が生み出す歪場を定量的に評価しそれが強誘電性を消失させるということを 実験的に示したというものである。
ポイントは2つ
・HREM像から歪場を検出する方法(Geometric Phase Analysis)
・PFM(Piezoelectric force Microscopy)を用いた、ナノ構造における強誘電性の検出 。

第19回 (12/22) 寺嶋 孝仁(寺嶋研、教授)
Josephson Junction through a Thin Ferromagnetic Layer: Negative Coupling , T. Kontos , et al., Physical Review Letters . 89, 137007 (2002).

スピントロニクスの今後の有望な方向として強磁性と超伝導を複合化した新し い効果の開拓がある。強磁性体に侵入したクーパー対は交換相互作用により侵 入方向に位相がシフトしていく。そのため、超伝導体/強磁性体/超伝導体の構 造からなる接合は強磁性体層の厚さによって超伝導体層間の結合が同位相とな る場合(0接合)と逆位相となる場合(π接合)が生じる。この機構について アンドレーエフ束縛状態と呼ばれる常伝導電子・ホールとクーパー対の間で形 成される量子化されたエネルギー準位を基礎にして説明し、実際の観測例を紹 介する。併せて強磁性π接合の量子ビットへの応用について展望する。

第20回 (1/12) 菅 大介(島川研、PD)
Identification of novel compositions of ferromagnetic shape-memory alloys using composition spreads , I. Takeuchi , et al., Nature Materials . 2, 180 (2003).

強磁性形状記憶合金は磁場駆動による高速度応答の可能性を有しており、 アクチュエータやセンサ等に利用可能な機能性材料として注目されています。 代表的な物質として Ni2MnGa(ホイスラー合金)やNiMnAl合金が知られています。 本論文はcomposition spreads法を用いて Ni-Mn-Ga系の相図を調べることで、 これまで知られていたホイスラー合金での組成(Ni2MnGa)だけでは なく、もっと広い組成において強磁性形状記憶合金の性質が見出される ことを報告したものです。

第20回 (1/12) 中村 秀司(小野研、M1)
Metamaterial Electromagnetic Cloak at Microwave Frequencies, D. Schurig, et al., Science . 314, 977 (2006).

最近、左手系メタマテリアルの研究が盛んにされています。 今回紹介する論文では、メタマテリアルを用いて、誘電率、透磁率を コントロールし、電磁波の軌道を制御することによってGHz の範囲の周波数ではありますが、Cuの円筒を透明化すること に成功したと報告しています。当日は、この実験の理論や シュミレーションの話も混ぜながらお話したいと考えています。

第21回 (1/19) 白木 宏(島川研、M1)
Large thermoelectric power in NaCo2O4 single crystals, I. Terasaki, et al., Physical Review B . 56, 20 (1997).
Thermopower in cobalt oxides , W. Koshibae, et al., Physical Review B . 62, 11 (2000).
近年、非常に深刻となっているエネルギー問題や環境問題を解決する手段とし て、熱電材料が注目されている。熱電材料は熱を直接電気に変えることのできる 材料であり、焼却場や工場などで生じた廃熱を再び回収するという利用が考えら れているが、変換効率が約10%と低く、材料に毒性があるため実用化例は限定的 であるのが現状である。 ところが、1997年の寺崎らによるNaの層状Co酸化物が高い性能を示すことが発見 されて以降、新しい熱電材料の研究が活発に行われている。これらの層状Co酸化 物はこれまでの熱電材料とは異なる原理で高い性能を持ち、さらに無害であるた め、今後の実用化に向けて非常に期待が持たれている。そこで当日は Naの層状 Co酸化物について説明し、時間があればそれ以降に発見された層状Co酸化物につ いていくつか紹介したいと思う。

第21回 (1/26 ) 葛西 伸哉(小野研、助手)
Room-Temperature Tunnel Magnetoresistance and Spin-Polarized Tunneling through an Organic Semiconductor Barrier, T.S. Santos, et al., Physical Review Letters. 98, 016601 (2007).

 近年、有機物半導体へのスピン注入が(一部の研究者のなかで)盛んに研究さ れている。有機物半導体が金属に比べて有利と考えられているのは、スピン軌 道相互作用の弱さであり、その結果として長いスピン拡散長が期待されるとい う点である。しかし実際には金属/有機半導体界面の制御性が大きな問題とな り、実際の報告も必ずしも信頼しうるものではない。今回紹介する論文では、 有機半導体Alq3にAl-Oトンネルバリアを組み合わせたトンネル接合を作製し、 その結果から強磁性金属/有機半導体界面について論じている。本論文は今後の 有機物スピントロニクス実現の可否を判断する一つの材料となろう。