2008 年度
第1回 (5/9)橋坂 昌幸(小野研、D3)
"The missing memristor found", S.B. Dmitri,et al., Nature 453, 80 (2008).
4/30付けのNature誌に、抵抗、コンデンサ、インダクタに続く第4の回路素子:メムリスタ(memristor)が開発されたという衝撃的な論文が掲載されました。この素子は1971年の段階ですでに予言されていたものですが、今回初めて実際に作製されたということで、メディアにかなりセンセーショナルに取り上げられているようです。メムリスタとは一体何なのか、また論文で紹介されているメムリスタは将来のエレクトロニクスにとって本当に有用なものなのか、みなさんの意見を聞きながら議論をしたいと思います。
第2回 (5/16)Michael Delmo(小野研、D2)
"Measurement of Rashba and Dresselhaus spin-orbit magnetic fields", L. Meier,et al., Nature Phys. 3, 650 (2007).
半導体スピントロニクスはまだ基礎研究の段階であるが、その将来性が大きい。そのときに重要な役割を果たすのがスピン軌道相互作用である。そのなかでは、ラシュバとドレッセルハウスのスピン軌道相互作用が重要であるといわれている。スピン軌道相互作用を利用すると磁性体や磁場を用いずに電子スピンを制御することが可能となる。本論文は、InGaAs/GaAsヘテロ構造をもつデバイスを用いて、ラシュバのスピン軌道相互作用とドレッセルハウスのスピン軌道相互作用が同時に測定できたという報告です。
第2回 (5/16)堀川 武則(島川研、M2)
"Lanthanide contraction and magnetism in the heavy rare earth elements", I. D. Hughes,et al., Nature 446, 650 (2007).
希土類は六方晶に結晶化するが、結晶格子の周期とは整合しない様々な特徴的な磁気構造をもっていることが分かっている。これはフェルミ面のwebbing topologyと関係することが推察されているとともに、希土類のフェルミ面は軸比c/aによって大きく影響することが経験的に知られている。本論文においては、このような希土類の磁気構造とc/aの関係性を理論的に確かめることに成功したとともに、磁気構造がランタノイド収縮とも関係していることが明らかになった。
第3回 (5/23)山田 啓介(小野研、D1)
"Spin transport through a single self-assembled InAs quantum dot with ferromagnetic leads", K. Hamaya,et al., Appl. Phys. Lett. 90, 053108 (2007).
"Electric-field control of tunneling magnetoresistance effect in a Ni/InAs/Ni quantum-dot spin valve", K. Hamaya,et al., Appl. Phys. Lett. 91, 022107 (2007).
半導体量子ドット(QD)を伝導チャネルとする強磁性金属(FM)/QD/FM二重トンネル接合を用いて、初めてトンネル磁気抵抗(TMR)効果を観測している。さらに、QDに誘起されるクーロンブロッケード効果を利用することで、TMR比のゲート電圧制御に成功している。また、クーロン振動のピーク近傍で測定したTMR曲線は、ゲート電圧に依存したTMR比の符号の反転が観測された。
第3回 (5/23)西村 浩輔(島川研、D3)
"NaV2O4: A Quasi-1D Metallic Antiferromagnet with Half-Metallic Chains", K. Yamaura,et al., Phys. Rev. Lett. 99, 196601 (2007).
NaV2O4は、CaFe2O4(カルシウムフェライト)に代表されるポストスピネル構造を取ります。ポストスピネルとは、地球惑星科学の分野で使われ、スピネルよりもさらに密度の高い構造を取るため、高圧合成法が有効とされています。今回新たに発見されたNaV2O4は、電気伝導に特徴的な異方性が見られ、非常に特異なハーフメタルと考えられています。
第4回 (5/30)河合 正徳(島川研、D2)
"Improper ferroelectricity in perovskite oxide artificial superlattices", E. Bousquet,et al., Nature 452, 732 (2008).
強誘電体人工超格子は、色々なパラメーターで強誘電性をチューニングできることから、酸化物薄膜研究の中で非常に注目されている系である。今回紹介する論文は、強誘電体酸化物(PbTiO3)と常誘電体酸化物(SrTiO3)から作製した人工超格子において、PbTiO3/SrTiO3界面でこれまで知られていなかったタイプの原子再配列が起こり、変わった「間接型」強誘電効果がもたらされるというものである。この系は、従来の強誘電体とは大きく異なり、温度にほとんど依存しない非常に高い誘電率を示す。本論文では、第一原理計算により構造の安定性を評価しただけでなく、著者ら自らが高品質な超格子薄膜を作成し物性を実験的に評価している。 このように、界面における歪み状態を調整し物性を制御するいわゆる“界面エンジニアリング”は、強誘電体材料開発において新たな指針となるばかりでなく、電気磁気効果を示す系にも応用できると考えられ、非常に興味深い結果である。
第4回 (5/30)小山 知弘(小野研、M2)
"Magnetization Dynamics due to Pure Spin Currents in Magnetic Double Layers", G. Wolterdorf,et al., Phys. Rev. Lett. 99, 246603 (2007).
磁性多層膜における磁化ダイナミクスは、「スピンポンピング効果」と「スピンシンク効果」に影響される。F1(強磁性層)/N(非磁性層)/F2(強磁性層)構造において、F1層でスピンポンピング効果により生成されたスピン流が、スピンシンク効果によりF2層に吸収された結果、F2層の磁化を誘起することができる。本論文では、磁気光学カー効果を用いてこの磁化ダイナミクスを直接観察した結果が報告されている。
第5回 (6/13)岡 研吾(島川研、D2)
"High rate capabilities Fe3O4-based Cu nano-architectured electrodes for lithium-ion battery applications", P. L. TABERNA,et al., Nature Mater. 5, 567 (2006).
金属酸化物を用いたアプリケーションとして、現在もっとも幅広く利用されているものの一つがリチウムイオン電池である。近年、リチウムイオン電池は軽量で大容量のため様々な電子機器に使用されているが、資源的に埋蔵量が少ないコバルトを正極材料に主に使っているため高価であり、コバルトを使用しないより安価で資源的に豊富な代替材料が求められている。そこで筆者たちはナノレベルで構造を制御した安価で簡便な方法で作成できる正極材料の合成を目指した。ポーラス材料をテンプレートとしCuピラーを電気化学的に成長させ、その表面に正極材料としてFe3O4を電気化学的に析出させることにより、高性能かつ安価なリチウムイオン電池正極材料の合成に成功した。
第5回 (6/13)中野 邦裕(小野研、M2)
"Chemical compass model of avian magnetoreception", K. Maeda,et al., Nature 453 387 (2008).
渡り鳥が正しい方向を知ることについては、長い間研究が続けられてきた。その中でも地磁気を用いて方角を感知しているのではないか、という説が多くの指示を得ている。しかし、実際にどのようにして地磁気を感知しているのかについては謎のままであった。今回著者らは、実験的に地磁気オーダーの微弱な磁場に反応する物質を用いて、渡り鳥が体内に持つであろうコンパスのモデルを提唱している。当日は本論文を中心に、その他の生体コンパスの研究等も合わせて発表しようと思います。
第6回 (6/27)中村 嘉孝(島川研、D1)
"Electric-field control of local ferromagnetism using a magnetoelectric multiferroic", Y-H Chu,et al., Nature Mater. (2008).
近年、材料科学、応用の観点から、強誘電性、反強磁性、強磁性の結合が注目されている。例えば、強誘電性と反強磁性の結合はマルチフェロイック材料に見られ、一方、反強磁性、強磁性の結合はexchange biasという現象で知られている。それでは強誘電性と強磁性の結合はどうか?
強誘電性と強磁性の結合はマルチフェロイック材料や固溶体などで見られるが、室温でそれぞれの性質の相互作用を見出したという例は無く、応用の観点からも目標とされていた。本論文では、マルチフェロイック材料に内在する強誘電性と反強磁性の結合、そして、反強磁性と強磁性の界面で生じる結合に着目し、マルチフェロイック材料BiFeO3と強磁性体Co0.9Fe0.1のヘテロ構造から、強誘電性と強磁性の結合を見出し、室温で電界印加による強磁性制御が可能であることを示した。
第7回 (7/4)島川 祐一(島川研、教授)
"Possible High T c Superconductivity in the Ba-La-Cu-0 System", J.G. Bednorz,et al., Z. Phys. B 64, 189 (1986).
1987年のノーベル物理学賞「酸化物高温超伝導体の発見」の論文です。1908年にカメリン・オンネスがヘリウムの液化に成功してから既に100年、1957年にBCS理論が発表されてから50年、そして、1987年に高温超伝導が発見から20年以上が経っています。今の学生の皆さんの多くにとって「高温超伝導の発見」は『もの心もついていない頃の出来事』であり、「高温超伝導」は単に教科書に載っている一章になっているのかもしれません。当時の雰囲気とその後を多少なりとも伝えるのも悪くないかと。。。
第7回 (7/4)中村 秀司(小野研、D1)
"Observation of Superflow in Solid Helium", E. Kim,et al., Science 305, 1941 (2004).
"Probable observation of a supersolid helium phase", E. Kim,et al., Nature 427, 225 (2004).
液体4Heは大気圧化では2.176Kで、ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こし、超流動性を有するようになる。超流動は、マクロな大きさで量子力学的な効果が発現し、物理的に面白い特徴を有している。この超流動性が固相においても発現することが理論的に1970年代から指摘され、2004年E.KimとM.Chanらによって固体4Heにおいても超流動固体4He相を発見したという報告がなされた。はたしてこれは"超流動固体"と呼べるものなのであろうか?
第8回 (7/10)井上 暁(島川研、M2)
"Quantum Hall Effect in Polar Oxide Heterostructures", A. Tsukazaki,et al., Science 315, 1388 (2007).
"Photoinduced insulator-to-metal transition in ZnO/Mg0.15Zn0.85O heterostructures", A. Tsukazaki,et al., Appl. Phys. Lett. 92, 052105 (2008).
半導体ZnOにおいて高効率のLEDを実現するためには、ZnOとバンドギャップの大きなMgxZn1-xOを接合したヘテロ構造や量子構造が必要不可欠である。圧電体ZnO量子構造では、半導体物性があまり明らかになっていないが、分極による内部電界のために電子と正孔が空間的に分離され、発光効率が劣化する懸念があり精査が必要である。ZnO/MgxZn1-xOヘテロ接合界面に生じる内部電界によって形成された高移動度2次元電子ガス(2DEG)を形成し,その基礎的な半導体電子物性を調べている。電子濃度はMg量に応じ、0.7*E12~3.7E12/cm-2まで制御可能であった。その結果、酸化物では初めてとなる量子ホール効果(QHE)の観測に成功した。続くApplied Physics Letterで、上記の酸化物ヘテロ界面において光キャリアによってMI転移を誘起した。
第9回 (10/9)堀川 武則(島川研、M2)
"Electronic and structural transitions in dense liquid sodium", J-Y. Raty,et al., Nature 449, 448 (2007).
半金属や半導体などは固体状態において、パイエルスひずみをもつが、温度を上昇させたり、圧力をあげたりすると、ひずみがなくなったり、あるいはひずみが保持されるのが一般的である。固体Naは圧力の増加の伴い、b.c.c.からf.c.c.へ構造相転移するとともに、さらにパイエルスひずみによってcI16群にも変わってしまう。液体Naは、b.c.c.からcI16への相転移に相当する新しいタイプの液体構造の相転移をおこすことが、融解曲線の異常性から推察されることが本論文において報告されている。
第10回 (10/17)Y.W. Long(島川研、PD)
"Negative Thermal Expansion from 0.3 to 1050 Kelvin in ZrW208", T.A. Mary,et al., Science 272, 90 (1996).
Negative thermal expansion was found for ZrW2O8 from 0.3 kelvin to its decomposition temperature of about 1050 kelvin. Both neutron and x-ray diffraction data were used to solve and refine the structure of this compound at various temperatures. Cubic symmetry persists for ZrW2O8 over its entire stability range. Thus, the negative thermal expansion behavior is isotropic. No other materials are known to exhibit such behavior over such a broad temperature range. These materials are finding applications as components in composites in order to reduce the composites' overall thermal expansion to near zero.
第10回 (10/17)小山 知弘(小野研、M2)
"Dynamics of domain wall depinning driven by a combination of direct and pulsed currents", N. Hayashi,et al., Appl. Phys. Lett. 92, 162503 (2008).
近年、その物理的興味とデバイス応用への可能性から、磁壁電流駆動現象が精力的に研究されている。とりわけ、トラップされた磁壁を電流によってデピニングさせることは応用に向けて鍵となる技術であるため、磁壁のデピニング機構を調べることは重要である。本論文では、人工的に磁壁のピニングサイトを入れたNiFe細線において、直流電流とパルス電流を同時に印加した際の磁壁のデピニングについて調べた結果が報告されている。さらに、その結果と数値シミュレーションの比較が行われている。
第11回 (10/24)東 正樹(島川研、准教授)
"Quantum-spin-liquid states in the two-dimensional kagome antiferromagnets
ZnxCu4−x(OD)6Cl2", S.H. Lee,et al., Nature Mat. 6, 853 (2007).
2次元カゴメ格子は最もフラストレーションの度合いが高い系として、理論と実験の両面で私たちの興味をかき立ててきました。最も興味深い、量子ゆらぎの大きいS=1/2でしかも格子歪みのない物質は長らく見つかっていませんでしたが、2005年にZnCu3(OH)6Cl2が「Perfect Kagome」であると報告され、注目を集めています。本論文では、Zn量によってパイロクロア格子(x=0)からカゴメ格子変(x=1)まで変化するZnxCu4-x(OH)6Cl2の弾性・非弾性中性子散乱から、RVB、VBS、Neelorderと様々な基底状態が出現する相図を明らかにしています。
第11回 (10/24)近藤 浩太(小野研、D1)
"Anisotropic interactions of a single spin and dark-spin spectroscopy in diamond", R.J. Epstein,et al., Nature Phys. 1, 94 (2005).
ダイヤモンドには、不純物を添加すると半導体になるという性質があります。この不純物として窒素を添加するとダイヤモンドは黄色になり,窒素と空孔が隣り合った構造(Nitrogen-Vacancy 中心)をもつことが知られています。現在,このNV中心は、量子情報処理に利用できる固体材料として最も注目されている材料の一つであり, 盛んに研究がなされています。今回は、NV中心が注目されるきっかけとなった重要な論文(NV中心がもつスピンのESR測定)を紹介したいと思います。
第12回 (10/31)小林 研介(小野研、准教授)
"Experimental demonstration of violations of the second law of thermodynamics for small systems and short timescales", G.M. Wang,et al., Phys. Rev. Lett. 89, 50601 (2002).
電気抵抗、磁化率、誘電率など、われわれが日常的に行っている実験で得られる量は、外場(電場や磁場など)を加えたときの系の応答を表す応答関数です。これらは、久保亮五がその成立に大きな貢献を果たした線形応答理論で記述されます。長年、その線形応答理論を超えて非平衡系の物理をよりよく理解しようという試みが行われてきましたが、その一つが1993年に提案された「ゆらぎの定理」です。これは、ごく短時間における小さい系における「熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)の破れ」を定量的に記述する非常に一般的な理論で、多くの研究がなされています。今回紹介するのは、提案者の一人(Evans)らのグループが行った「ゆらぎの定理」の実証実験です。彼らは、液体中で浮遊するコロイド粒子の運動を追跡することによって、熱力学第二法則の破れを観測し、それがゆらぎの定理の予測と定量的に一致することを示しました。
第12回 (10/31)滕 永紅 (島川研、PD)
"Nanosegregated Amorphous Composites of Calcium Carbonate and an Organic Polymer", Y. Oaki,et al., Adv. Mater. 20, 3633 (2008).
CaCO3は結晶化しやすく、アモルファスCaCO3(ACC、化学組成はCaCO3・H2O)は安定的に存在しにくく、実験室では過飽和CaCO3溶液から一時生成するが、数分以内に結晶化してしまう。けれども、植物、貝や蟹や海老の殻の中で有機物と共存したアモルファス状態で安定化している。著者らは、簡単な方法を用い、PAA(ポリアクリル酸)と水に隔離された2nmのACCを含む複合物を作成し、さらにこの複合物に色素を導入し、光学特性の評価を行った。この複合物は長期安定性を持ち、色素を均一に分散できる特色がある。機能性材料の研究分野で、比較的にきちんとした同定や安定性チェックを行った丁寧な仕事である。
第13回 (11/7)谷川 博信(小野研、D3)
"Real-Space Observation of Helical Spin Order", M. Uchida,et al., Science 311, 359 (2006).
従来、らせんスピン秩序は中性子回折などの手法により逆空間で調べられてきた。しかしながら、中性子回折から測定されたらせんスピンの周期は全体の平均値を測定していることになり、内部の詳細な磁気構造までを洞察することはできない。本論文では、らせんスピン秩序をとるFeCoSiの金属シリコン合金系の実空間での観察の様子と観察で見出された磁気的欠陥について説明している。また、外部磁場を印加することによって生じるらせんスピン秩序構造の変形ダイナミクスについても言及している。
第13回 (11/7)井上 暁(島川研、M2)
"Lack of influence of anisotropic electron clouds on resonant x-ray scattering from manganite thin films", Y. Wakabayashi,et al., Phys. Rev. B 69, 144414 (2004).
共鳴X線散乱に対してeg電子が及ぼす影響を見積もるため、xの異なる(t2g)3(eg)1-x電子配置を持つ一連のRE1-xSrxMnO3(RE:rare earth)薄膜を用いてMn K端近傍での共鳴X線散乱を行った。X線回折実験により決定したMnO6八面体に付随するJahn-Teller(JT)歪のデータとから、共鳴X線散乱にはJT歪みが支配的であり、eg電子からのクーロン反発の寄与は無視できるということを確認した。
第14回 (11/14)小野 輝男(小野研、教授)
"Current-Induced Spin-Wave Doppler Shift", V. Vlaminck,et al., Science 322, 410 (2008).
パーマロイ細線中のスピン波と電流の相互作用を調べた論文です。スピン波の周波数が電流の方向に依存することを実験的に確かめました。電流密度と周波数シフトの大きさの関係からパーマロイ細線を流れる電流のスピン分極率を決めました。この実験は様々な強磁性体のスピン分極率を決定する新しい手法となるでしょう。
第14回 (11/14)市川 能也(島川研、助教)
"Orbital order and possible superconductivity in LaNiO3/LaMO3 superlattices", J. Chaloupka,et al., Phys. Rev. Lett. 100, 016404 (2008).
銅酸化物における高温超伝導現象以後、比較的高い超伝導転移温度を持ついくつかの物質系が発見されてきた。MgB2 も FeAs 系も銅を含まないという点では共通しているが、超伝導現象の発現機構は銅系のそれとは異なる。一方、銅酸化物と同様の結晶構造を持つNi酸化物等の研究も行われたがこれらは限られた温度範囲で金属的伝導を示すものの
基底状態は超伝導ではない。本論文は理論計算により、人工超格子の手法を用いれば銅酸化物の電子状態のうちのいくつかの側面を Ni 酸化物で実現できるという予想を述べたものである。
第15回 (11/21)齋藤 高志(島川研、助教)
"Prediction of the crystal structures of perovsskites using the software
program SPuDS", M.W. Lufaso,et al., Acta Crystallogr., B 57, 725 (2001).
ペロブスカイト型構造ABX3は三元系化合物における最も基本的な結晶構造の一つであり、基礎科学・応用の両面で精力的な物質開発がなされている。三元系化合物における元素の組み合わせは膨大にあるが、ペロブスカイト型構造をとり得る組み合わせは限られている。またペロブスカイト型構造はBX6八面体の傾き・回転の様式によっていくつかのタイプに分類され、このタイプの違いが物性に影響を与える。従って、仮想的に与えられたペロブスカイト型化合物の安定性を評価することは新物質探索を行う上で非常に効果的である。本論文では、ペロブスカイト型化合物の安定性の予測手法を開発し、実際の化合物を例にその検証を行っている。
第15回 (11/21)山内 祥晃(小野研、D2)
"Quantum phase transition from a superfluid to a Mott insulator in a gas of ultracold atoms", M. Greiner,et al., Nature 415, 39 (2002).
現在、量子光学の分野で研究が盛んなテーマとして光格子がある。これは磁気光学トラップされた原子を、レーザー光によって作製された周期ポテンシャルに置くことで作製されるものである。光格子は転移や欠陥などに妨げられることなく、固体物理で提唱されている理論のモデルを検証することが出来るという特長を持つ。本論文は光格子にトラップされたRb原子の超流動絶縁体転移を観測した報告である。
第16回 (11/28)中野 邦裕(小野研、M2)
"Experimental quantum teleportation", D. Bouwmeester,et al., Natre, 390, ?? (1997).
SFの世界ではたびたび目にする、テレポーテーション(瞬間移動)。実際には不可能としか思えない技術であったが、近年、量子の世界でテレポーテーションに成功したという論文が発表された。この実験の背景には、アインシュタインらによる問題提起から始まる、長い長い量子力学の議論が存在する。当日は、エンタングルした光子を「うまく」利用した実験の内容と、量子テレポーテーションの理論が生まれるまでの歴史を紹介したいと思います。
第16回 (11/28)遠山 武範(島川研、M1)
"A Novel Heavy-Fermion State in CaCu3Ru4O12", W. Kobayashi,et al., J. Phys. Soc. Jpn. 73, 2372 (2004).
重い電子系は、局在電子と伝導電子が近藤効果を介して相互作用する系であり、通常この局在電子はf電子である。d電子による重い電子物質とみなせるものとしてはLiV2O4が見つかっているが、V3dが伝導電子として働き、それと同時に局在モーメントをもつという点で、f電子系重い電子物質とは異なっている。本論文では、ペロブスカイト型構造のCaCu3Ru4O12の固溶体であCaCu3Ti4-xRuxO12,CaCu3-yMnyRu4O12に対し、磁化率、比熱、電気抵抗、熱起電力を測定した。さらに著者らは、CaCu3Ru4O12がCu3dを局在電子、Ru4dを伝導電子とする新しいd電子系重い電子物質であり、これがf電子系重い電子物質と等価であると主張している。
第17回 (1/9)山田 元(小野研、M1)
"Giant reversible magnetocaloric effect in cobalt hydroxide nanoparticles", X.H. Liu ,et al., Appl. Phys. Lett. 93, 202502 (2008).
磁気熱量効果(MagnetoCaloric Effect:MCE)に基づく冷却方法は、エネルギー効率の良さと環境負荷の少なさの観点から、現在広く利用されている気体圧縮冷却技術に取って代わるものとして盛んに研究されています。この論文では,beta-Co(OH)_2 微粒子における磁気転移に付随したMCEについての実験結果が報告されています。
第17回 (1/9)知田 健作(小野研、M1)
"A continuous-wave Raman silicon laser", H. Rong,et al., Nature 433, 725 (2005).
シリコンはエレクトロニクスに無くてはならない物質で、最もよく研究された物質の一つです。間接遷移型半導体であるシリコンは発光効率が悪く、光学応用には向かないと考えられて来ました。しかし、出来るものならシリコンで光を操りたい。そんな半導体産業の人々の夢が実現に向かっています。今回紹介する論文は世界で初めてシリコンでレーザーの連続発振に成功したというもので、シリコンベースの光学素子が実用化される可能性を十二分に示すものです。
第18回 (1/16)田辺 賢士(小野研、M1)
"Electric Control of Spin Helicity in a Magnetic Ferroelectric", Y. Yamasaki,et al., Phys. Rev. Lett. 98, 147204 (2007).
TbMnO3はペロブスカイト構造をとり、らせん磁化構造でかつ強誘電体であるマルチフェロイックであることが知られています。本論文はこのTbMnO3で初めて電場だけでらせん磁化のカイラリティの制御の成功を報告したものです。当日は、島川研の方もいらっしゃるため、マルチフェロイックやペロブスカイトに詳しい方も多いと思われ、これらを学ぶきっかけになればと思います。