2009 年度
第1回 (5/15)Michael Delmo(小野研、D3)
"Superinsulator and quantum synchronization", Vinokur, V. M.,et al., Nature 452, 613 (2008).
超電導薄膜では、無秩序性によって小滴型の電子テクスチャー、つまり常電導マトリックス中に埋め込まれた超伝導島構造が生じ、無秩序性を調整すると、この系は超電導挙動から絶縁挙動へ駆動されることがいくつかの実験によって示されている。これまで特性が評価されていなかった物質の「超絶縁」状態がこの過程に関与することを示す実験証拠が報告された。物質の「超絶縁」状態とは、超伝導体の「鏡像」に相当する抵抗無限大の状態を指す。超伝導体から絶縁体へ転移する間に、熱活性化された伝導率をもつはっきりした伝導状態、つまりクーパー対絶縁体が形成される。窒化チタン(TiN)膜での実験によって、特定の有限温度において、クーパー対絶縁体が超絶縁体になることが示された。この状態は十分強い臨海磁場によって破壊され、特定の臨界電圧で崩壊するという点で超伝導に似ている。
第1回 (5/15)中村 嘉孝(島川研、D2)
"Origin of morphotropic phase boundaries in ferroelectrics", M. Ahart,et al., Nature 451, 545 (2008).
Pb(Zr,Ti)O3 などの圧電材料は組成相図の中でモルフォトロピック相境界(MPB)として知られている転移領域を示す。そこでは結晶構造が急激に変化し、電気機械的特性が最大となる。これまで、MPBを示す材料は2つ以上の物質を組み合わせた固溶体が多く、その性質の起源を研究することは複雑とされていた。これに対し著者らは、チタン酸鉛(PbTiO3)だけでも、圧力下でMPBを示すことが出来たことを報告している。この結果から、PbTiO3を組み合わせた固溶体で見られるMPBは、PbTiO3の高圧相が常圧で現れているのが起源だと考えられる。そして、大きな圧電性を得るために複雑な組成や微細構造が必ずしも必要ではないことがわかり、優れた電気機械的特性をもつ物質の発見が期待される。
第2回 (5/29)玉田 芳紀(小野研、D3)
"Giant coercive field of nanometer-sized iron oxide", J. Jin,et al., Advanced Materials 16, 48 (2004).
酸化鉄は地球上にありふれた物質であり、我々が生活をおくる上でも様々なところで利用されている。しかし、ひとくちに酸化鉄といってもその構造は多岐にわたる。組成式としてはFeO,Fe3O4, Fe2O3の3種類に大別される。そのうちFe2O3はα、β、γ、εの4種類の相をなすことが明らかとなっており、その中でαおよびγ相は化学的に大変安定である。実は、地球上に豊富な鉄酸化物は、Fe3O4を含めたα-Fe2O3, γ-Fe2O3の3種類のみとなっている。βおよびε相は準安定相であり、自然界にはほとんど存在しない。本論文では、酸化鉄中でも極めて稀なε-Fe2O3相のナノ粒子の合成に初めて成功した。ε型の単相が得られたのもこれが初めてある。また、このナノ粒子は室温で20 kOeという大変大きな保磁力を示した。これまでの金属酸化物の保磁力最高値は6 kOeであり、このナノ粒子によってその最大値が3倍以上更新されたことになる。どのような手法を用いてε-Fe2O3の合成に成功したのか、また、巨大な保磁力の原因はどこにあるのかを考察しながら本論文を紹介していきたい。
第2回 (5/29)岡 研吾(島川研、D3)
"Magnetization ‘‘Steps’’ on a Kagome Lattice in Volborthite", H. Yoshida,et al., JPSJ, 78 (2009)043704.
いくつかの相互作用が競合する系ではその度合いによってフラストレーションが期待できる.もっとも理想的なフラストレーションが幾何学的に実現すると期待される系は,結晶格子に正三角形の格子点を持つものであり,それらの代表的なものは三角格子,カゴメ格子,パイロクロア格子と呼ばれるものである.特にカゴメ格子はそれぞれの三角形が独立している傾向が強いので,もっとも強いフラストレーションが期待できる.磁気フラストレーションを持った系は,基底状態においていくつかの状態が縮退し,その結果最低温においても秩序を持たないスピン液体となると言われている.特に量子的なゆらぎの効果が顕著になる量子スピン(S=1/2)の系においては,どのような基底状態が実験的に観測されるかは非常に興味のもたれるところである.しかしながら,現実には不純物の問題を持つ物質や最低温になるまでに対称性を下げてフラストレーションを緩和して秩序化してしまう物質が大半であり,実験的にカゴメ量子スピンの基底状態を観測することが困難であった.本論文では,カゴメ量子スピン系のモデル物質として注目されるVolborthiteの純良な試料の合成に成功し,最低温付近での磁気的な性質を調べ,より本質的なカゴメ量子スピン系の特異な振る舞いを報告したものである.
第3回 (6/5)山田 元(小野研、M2)
"Current-Controlled Magnetic Domain-Wall Nanowire Shift Register", M. Hayashi,et al., Science 320, 209 (2008).
強磁性細線中の磁壁を記録素子として応用する一つの方法としてS. Parkinらによってmagnetic racetrack memoryが提案されている.実現のためには磁壁を連続的に生成し,駆動させ,検出する必要があるが,著者らはパーマロイの細線を用いてそのことに成功した.また,これを用いて3ビットのシフトレジスタとしても動作させている.
第3回 (6/5)市川 能也(島川研、助教)
"Possibility of Synthesizing an Organic Superconductor", W. A. Little,et al., Phys.Rev 134, 6A (1964).
超伝導現象は低温で出現する巨視的量子力学現象であり、現在でも転移温度の最高記録は圧力下の水銀系銅酸化物における165Kである。仮に超伝導が室温以上で実現できればエネルギー問題に革命が起こると容易に想像できることから様々な機構が提案されてきた。室温超伝導のアイディアの中で、Littleによる「励起子超伝導」と呼ばれる理論予測論文はBCS理論の7年後とかなり早い段階で出た論文であり、その後の有機超伝導体研究に多大な影響をもたらしたことで有名である。今回はこのLittle理論について紹介する。
第4回 (6/12)知田 健作(小野研、M2)
"Spin Correlations of Strongly Interacting Massive Fermion Pairs as a Test of Bell’s Inequality", H. Sakai,et al., Phys.Rev.Lett 97,150405 (2006).
非局所量子相関(エンタングルメント)は量子論を特徴づける概念であり、量子コンピューティングや量子テレポーテーションといった将来の情報技術の基礎をなす重要な現象です。エンタングルメントの存在はベル不等式の破れを観測することにより実証されますが、光子以外で信頼のおける実験観測を行った例はありません。今回紹介する論文はフェルミオンである陽子対を用いてベル不等式の破れを高い信頼性のもとに観測したというものです。
第4回 (6/12)Youwen Long(島川研、PD)
"Orbital ordering transition in La4Ru2O10", P. Khalifah,et al., Science 297, 2237 (2002).
A full orbital ordering transition was reported in a two-dimensional lanthanum ruthenate La4Ru2O10. The observable consequences of this orbital ordering include the loss of the Ru local moment, a structural distortion which partitions Ru-O bonds into axially oriented short and long sets, a sharp jump in electrical resistivity, and the opening of a spin gap that is visible in neutron scattering experiments. This is a rare example of a discrete orbital ordering transition in a 4d transition metal oxide and demonstrates that orbital effects can have an influence on the properties of layered ruthenates, a family of compounds that notably includes the p-wave superconductor Sr2RuO4 and the field-tuned quantum critical metamagnet Sr3Ru2O7.
第5回 (6/26)田辺 賢士(小野研、M2)
"Electromotive force and huge magnetoresistance in magnetic tunnel junctions", P. H. Hai,et al., Nature 458, 489-492(2009).
本論文は、静磁場中に素子を置いたとき、約10分間の起電力が発生することを示した論文です。これは近年理論的に予言されていた“スピン起電力”であると著者らは主張しています。スピン起電力はファラデーの電磁誘導の法則の変更に繋がる可能性があり、それを初めて検出したという意味で、非常に野心的な論文だと言えます。またこの測定に用いたMTJ素子は、10万%以上という超巨大なMR比を観測しています。
第5回 (6/26)河合 正徳(島川研、D3)
"Quantized conductance atomic switch", K. Tarabe,et al., Nature 433, 47 (2005).
“ナノデバイス”は、現行の半導体デバイスの物理的・経済的限界を克服し得る方法として注目されている。今回はナノデバイスの例として原子スイッチというものを紹介する。これは、電界印加によって結晶表面での原子の析出・消滅が制御できることをスイッチへ応用したものであり、半導体デバイスに比べ低動作電圧であり、on/off状態が無バイアス下で保持されるため低消費電力に貢献できる。構造が単純なので、デバイスへの組み込みが容易であり微細化にも有利。著者らはこのスイッチでAND, OR, NOT論理ゲートの試作も行っており、将来的にはコンピュータに必要な論理回路が形成できると期待できる。さらに、このスイッチが量子化コンダクタンスを示し、これを利用して多値メモリ素子を試作したというのも面白い点である。
第6回 (7/3)小山 知弘(小野研、D1)
"Trapping and delaying photons for one nanosecond in an ultrasmall hogh-Q photonic-crystal nanocavity", T. Tanabe,et al., Nature Photonics 1, 49 (2007).
光を長時間狭い場所に蓄えることは、原理的に非常に困難である。しかし光を長時間補足したり伝播を遅くすることは、量子情報や光学過程を理解する上で非常に重要な技術である。そのような研究を行う系として、フォトニック結晶共振器は、そのQ値(光の閉じ込めの度合いを表す量)の高さから注目を集めている。著者らは、高Q値を持つフォトニックナノ共振器中に光を約1ナノ秒間補足した結果について報告している。また光の速さを真空中の約20万分の1まで遅くすることにも成功した。
第6回 (7/3)松本 和也(島川研、M2)
"Battery materials for ultrafast charging and discharging", Byoungwoo Kang,et al.,Nature 458, 190-193 (2009).
現在、リチウムイオン二次電池は様々な電子機器に使用されていますが、その充電には長い時間がかかります。本論文では、正極材料としてよく知られているLiFePO4の表面構造を改良することで、充放電速度を最大36倍まで高められる可能性があると述べています。
第7回 (7/10)小野 輝男(小野研、教授)
"Magnetic Anisotropy and Magnetization Dynamics of Individual Atoms and Clusters of Fe and Co on Pt(111)", T. Balashov,et al.,PRL 102, 257203 (2009).
Pt上のCo原子が巨大な磁気異方性を示すことがXMCD測定によって明らかにされています(P. Gambardella et al., Science 300, 1130 (2003))。本論文は、Pt(111)上のCoとFeの原子、あるいはそのクラスターの磁気異方性と磁化ダイナミクスを非弾性トンネル分光で調べたものです。
第7回 (7/10)島川 祐一(島川研、教授)
"Nanotube radio", K. Jensen,et al.,NANO LETTER 7, 3508 (2007).
カーボンナノチューブ1本でラジオを動作させた例を紹介します。カーボンナノチューブの特性を使うと、1本でアンテナ、チューナー、アンプ、復調の全ての機能を実現できます。世の中に「ナノ」を冠する製品は数多く出回っていますが、これこそは真に「ナノテクノロジー」と呼べるものかもしれません。随所に「茶目っ気」のある面白い論文です。
第8回 (7/17)近藤 浩太(小野研、D2)
"Molecule-based system with coexisting conductivity and magnetism and without magnetic inorganic ions", M. M. Matsushita,et al., Physical Review B 77, 195208 (2008).
今回紹介する論文は、磁性金属元素を全く含まない有機分子の結晶で、巨大磁気抵抗を実現したという実験結果とそのメカニズムを示しています。この発見は、今後の有機物質を用いたスピントロニクスの発展に大きく寄与すると考えられています。
第8回 (7/17)遠山 武範(島川研、M2)
"Spin entropy as the likely source of enhanced thermopower in NaxCo2O4", Yayu Wang,et al.,Nature 423, 425-428 (2003).
熱と電気エネルギーを直接変換する機能を持つ熱電変換材料は、環境・エネルギー問題を解決する技術の一つとして注目されています。この材料は、自動車や工場などから排出される廃熱を、再び電気エネルギーとして利用するといった応用が期待できますが、変換効率が低いのが課題となっています。遷移金属酸化物の熱電能を向上させる重要な要素はスピンエントロピーであり、エントロピー流を支配していると予測されています。しかしながら、スピン―エントロピー成分の決定的な証拠、すなわち縦磁場中でのスピンの完全な抑制は今まで報告されていません。この論文では、層状酸化物NaxCo2O4における抑制の証拠を、縦磁場および横磁場中の熱電能と磁化の計測に基づいて報告しています。
第9回 (10/9)山内 祥晃(小野研、D3)
"Measured long-range repulsive Casimir-Lifshitz forces", J. N. Munday,et al.,Nature 457, 170(2009).
カシミール力は1940年代後半にオランダのカシミールによって発見された。これは真空中にある2枚の導体平板を平行に置いた際、平板間に生じる引力として知られている。MEMSのような微小デバイスにおいて、カシミール力を制御することは、デバイスのスムーズな動作のために重要であり、近年、再びカシミール力に注目が集まっている。本論文は、カシミール力が斥力になることを観測した論文であり、MEMS等への応用に重要であると考えられる成果である。
第9回 (10/9)滕 永紅(島川研、PD)
"Low-temperature oxidation of CO catalysed by Co3O4 nanorods", Xiao wei Xie,et al.,Nature 458, 9 (2009).
一酸化炭素の低温酸化反応は触媒の歴史上にもっとも多く研究された反応であり、最近、空気清浄や自動車排ガスの低減の関係で、重要性が増えている。Mn-Cu複合酸化物は海底で空気浄化効果があると初めて発見されたが、常温では活性が低く、湿気によって失活する。一方、貴金属触媒は耐水性を持つが、100℃以上の反応温度が必要である。金微粒子は低温では高い活性を示す上に、湿気を含む大気中でも安定であるけれども、卑金属酸化物に金微粒子として担持する必要がある。貴金属なしで、常圧でCO酸化に対し、活性が高くて安定な触媒の開発は今でも非常にチャレンジなテーマである。我々が報告するCo3O4ナノロッドは、−77℃という低温下でCO酸化反応を進ませるだけでなく、通常の湿気のある反応ガス中でも安定性を保つ。HRTEM結果はこのCo3O4ナノロッドはCo3+活性点をたくさん持つ、{110}を露出していることを証明する。動力学の分析結果は、Co3+の数に対するtrunover freqency(TOF)はナノロッドと普通のナノ微粒子とよく似ていることを示す。これは我々の得られたナノロッドの著しく高い反応速度はロッド形状の表面のCo3+活性サイトの多さによる可能性を示す。これらの結果は卑金属酸化物を高活性の触媒として合成する時の形状制御の重要性を示す。
第10回 (10/16)中村 秀司(小野研、D2)
"Silica-on-Silicon Waveguide Quantum Circuits", Alberto Politi,et al., Science 320, 646 (2008).
集積回路(Integrated Circuit、IC)は複雑な回路を一つの基板上に作製したもので、現在コンピューターをはじめ日常の様々なものにも使われている。現在の集積回路では電子が主役を演じているが近年、光を用いる「光集積回路」を作製する試みがなされ量子コンピューターや量子通信を実現する上で注目を浴びている。今回紹介する論文ではシリコン基板上に添加物によって屈折率差を設けたシリカで導波路を形成し、量子論理ゲートであるCNOTゲートを作製し動作に成功したことを報告している。
第10回 (10/16)東 正樹(島川研、准教授)
"Lead-free piezoceramics", Yasuyoshi Saito,et al.,Nature 432, 84 (2004).
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックスは優れた圧電材料であり、センサー、アクチュエーターおよびその他の電子部品に広く利用されているが、重量比で60%以上の鉛を含んでいる。鉛を含まない圧電セラミックスは、その重要性から多くの取り組みがなされてきたにもかかわらず、PZTに匹敵する性能の代替材料は未だ開発されていない。本論文は、電場で誘起されるひずみ(電界誘起変位)が、代表的なアクチュエーター用PZTに匹敵する、鉛を含まない圧電セラミックスの報告である。この開発は、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型固溶体組成における結晶構造相転移境界の発見と、〈001〉結晶軸方向に高度に配向組織化された多結晶を得るプロセス技術を組み合わせることで達成された。このセラミックスの圧電常数はd33=300pC/N(1ニュートンの力を加えたとき、力と同じ方向に300ピコクーロンの電気量が誘起される)まで向上し、〈001〉結晶軸方向に配向組織制御された材料では最大d33= 416 pC/Nに達した。さらに配向組織化により、電場で誘起されるひずみが温度に依らなくなるという現象を発見した。
第11回 (10/23)松本 和也(島川研、M2)
"Thin-Film Transistor Fabricated in Single-Crystalline Transparent Oxide Semiconductor", Kenji Nomura,et al.,Science 300,1269(2003).
この研究では反応性固相エピタキシャル法により育成したInGaO3(ZnO)5単結晶薄膜をチャネルに用い、またHfO2をゲート絶縁層に用いた透明電界効果トランジスタの作製している。このFETは、酸化物半導体でありながら、これまでの酸化物透明FETよりも1〜3桁性能の良い、ポリシリコン並みの特性を実現している。このFETは、ポリシリコンと違い透明であることから、表示素子への応用や、光・電子回路等の全く新しい用途展開が期待されます。また、反応性固相エピタキシャル法を用いた、その他の材料合成の例についても紹介したいと思います。
第12回 (10/30)小林 研介(小野研、准教授)
"Current status of the quantum metrology triangle", Mark W Keller, Metrologia 45 (2008) 102-109.
電気素量eやプランク定数hなどの基礎物理定数を精密に測定することは、物理学の根底に関わる重要な問題です。また、これらの研究は、SI単位系の基盤をなすもので、計測標準(メトロロジー)研究の重要なテーマの一つでもあります。計測標準の世界では、電流、電圧、抵抗のうち2つを実現し、ほかの1つはオームの法則に基づき、その2つから導かれます。しかし、あえて、3つとも独立に、他の量に依存しない形で量子力学的に確立した場合、それらは矛盾しないのでしょうか?現在、ジョセフソン効果、量子ホール効果、単電子効果の3つを用いてeとhの組み合わせを3通りに実現し、3者の間の無矛盾性を検証しようという実験が行われています。今回の雑誌会では、そのような研究「量子計量標準三角形(quantum metrology triangle)」について、ご紹介したいと思います。
第13回 (11/6)中野 邦裕(小野研、D1)
"High-Efficiency Quantum Interrogation Measurements via the Quantum Zeno Effect", P. G. Kwiat,et al.,Phys. Rev. Lett. 83, 4725 - 4728 (1999).
量子力学の世界では、我々が日常的な常識と思っていることが通用しない。SFの世界でしか実現されなかったテレポーテーションが可能となったり、複製不可能かつ盗聴不可能な暗号が作製できたりする(量子テレポーテーション、量子暗号)。
今回は、そんな量子の不思議な性質を利用した実験を紹介する。ブラックボックス内にモノがある・ないを、対象物に触れることなく判定可能な「無相互作用測定」と、頻繁に観測を繰り返すことで系の時間発展を凍結させる「量子ゼノン効果」を利用した興味深い実験である。
第14回 (11/13)知田 健作(小野研、M2)
"Fine structure constant defines visual transparency of graphene", Nair RR,et al.,Science 320, 1308(2008).
微細構造定数αは電荷間の相互作用の強さを示す重要な物理定数です。今回紹介する論文は単層グラファイト「グラフェン」の透明度が微細構造定数で決まっているというもので、微細構造定数を目で見ることができるというお話です。
第14回 (11/13)山田 元(小野研、M2)
"Magnetic Domain-Wall Logic", D. A. Allwood,et al.,Science 309, 1688(2005).
今回紹介するのは,磁壁を利用した論理回路に関するレビュー論文です.パーマロイ(Ni80Fe20)の細線を用いて否定(NOT)や論理積(AND)などを実現し,さらにそれらを組み合わせて一つの回路上で動作させることにも成功しています.CMOSを用いた論理回路と比較すると構造が著しく単純なため応用面でも期待されています.
第15回 (11/27)千葉 大地(小野研、助教)
"Experimental Evidence of the N?el-Brown Model of Magnetization Reversal", W. Wernsdorfer,et al.,Phys. Rev. Lett. 78, 1791(1997).
単磁区強磁性微粒子の磁気モーメントの熱揺らぎとその熱平衡状態への緩和に関する考察はちょうど50年前にNeelによって導入され、Brownによってさらに発展された。これまで、大量の微粒子の集合体に関する研究報告は数多くあったが、Neel-Brownモデルとコンシステントな結果は得られていなかった。この論文では、単一強磁性微粒子の時間反転を詳しく調べることで、NeelとBrownが提案した単一の障壁を熱的に乗り越えるモデルによってその振る舞いがつじつま良く説明できることを実験的に初めて示している。
第15回 (11/27)関口 康爾(小野研、特定研究員)
"Optical rogue waves", D. R. Solli,et al., Nature 450, 1054(2007).
海洋における凶暴な波--Rogue Wave--は波の重畳原理では考えられないほどに大きく、時として高さ30mを超える。本論文は、このようなRogue Wave を光学現象において初めて観測した報告です。この発見により将来的に、Rogue Waveの発生機構の解明、光情報通信分野において高出力の電磁波(光)パルスを可能とする素子開発などの波及効果が期待できます。
第16回 (12/11)齊藤 高志(島川研、助教)
"First Observation of Phase Transformation of All Four Fe2O3 Phases (γ→ε→ β→α-Phase)", Shunsuke Sakurai,et al.,J. Am. Chem. Soc.(2009).
Fe2O3にはα、β、γ、εの4つの結晶構造が知られているが、これら相の間の相対的な安定性については不明な点が残っていた。本論文では、多孔質SiO2を用いて様々なサイズのFe2O3ナノ粒子を作製することにより、これら全ての相を系統的に作り分ける事に成功しています。その結果、これらの相の 安定性が粒径によって変化すること見出しています。この発見は、バルクでは「非平衡」な相が粒径制御によって「平衡相」として作製可能であることを示しており、今後様々な材料開発に活かされると期待できます。
第16回 (12/11)山田 啓介(小野研、D2)
"Ballistic spin resonance" S. M. Frolov,et al., Nature 458, 868-871(2009).
半導体中における電子のスピンを反転させる従来の方法は、外部交流磁場が必要であった。今回紹介する論文では、外部からの励起を必要としない方法で電子のスピンを反転させた。著者らは、この効果が二次元電子ガスのマイクロメートルスケールのチャンネル中で数十ギガヘルツの周波数で跳ね返る電子の自由運動により生じることを示した。
第17回 (12/18)大西 希(島川研、M1)
"Spin-Liquid State in the S=1/2 Hyperkagome Antiferromagnet Na4Ir3O8" Yoshihiko Okamoto,et al., Phys. Rev. Lett. 99, 137207 (2007).
時間的にも空間的にもスピンの向きが決まらない磁気無秩序状態、すなわちスピン液体状態の実験的な実現は磁性分野における大きな挑戦の一つである。今回著者らはS = 1/2ハイパーカゴメ格子反強磁性体Na4Ir3O8においてスピン液体状態が実現することを発見した。磁化率や比熱、中性子回折の結果はこの物質の基底状態がスピン液体状態であることを示しており、これは三次元磁性体での最初の例である。さらに著者らは、磁気比熱が低温で二次元系に期待されるT2 の依存性を持つ、ハイパーカゴメ構造は異なったカイラリティを有する二つの等価な構造が存在する、などのユニークな特徴も明らかにした。
第17回 (12/18)上田 浩平(小野研、M1)
"Universality Classes For Domain Wall Motion in the Ferromagnetic Semiconductor (Ga,Mn)As" M. Yamanouchi,et al., Science 317, 1726(2007).
磁壁の磁場駆動と電流駆動研究が盛んに行われてきたが基本的なメカニズムの理解はまだ不足しています。強磁性半導体(Ga,Mn)Asの熱活性的な閾値以下、すなわち速度がアレニウス則に従うクリープ領域中における磁壁の電流or磁場移動を測定し比較しています。本論文ではこの法則で、電流と磁場の指数の違いが異なるuniversality classesに属すると示しています。
第18回 (12/25)境口 綾(島川研、M1)
"Printed Assemblies of Inorganic Light-Emitting Diodes for Deformable and Semitransparent Displays" Sang-Il Park,et al., Science 325, 977 (2009).
筆者らは、薄くて小さい無機発光ダイオード(LED)をつくり、さらに発光システムと合わせて組立てることで、珍しい特性を持ったディスプレイをつくる方法を開発しました。LEDはエピタキシャル成長を用いることで、薄くつくられ、従来の平面処理技術が適用できます。さらに、印刷法を用いることにより、ウエハーより大きい領域のガラスやプラスチック、ゴムなどの基板にデバイスを転写することができます。この方法で、変形が可能で半透明というディスプレイを実現できます。
第18回 (12/25)荒川 智紀(小野研、M1)
"Violation of Kirchhoff's Laws for a Coherent RC Circuit" J. Gabelli,et al., Science 313, 499-502 (2006).
キルヒホッフの法則を使えば、キャパシタンスと抵抗が混ざった回路のインピーダンスが予測できます。この論文では、抵抗とキャパシタンスの直列回路で、完全にコヒーレントに量子化されている場合のギガヘルツでのインピーダンスでは、キルヒホッフの法則が成り立たないことを測定した結果を報告しています。また、これは抵抗がキャパシタンスと結合した場合には、抵抗が単独である場合とは違うふるまいをすることに起因します。
第19回 (1/8)山田 隆太(島川研、M1)
"Mn3+ in Trigonal Bipyramidal Coordination: A New Blue Chromophore" Andrew E. Smith,et al., J. Am. Chem. Soc. 131,17084(2009).
YInO3とYMnO3はそれぞれ白色と黒色であるが、著者らはYInO3のtrigonal bipyramidal サイトにMn3+が導入されると、驚くほど濃い青色が得られることを発見した。このYIn1-xMnxO3の青色は、非中心対称性trigonal bipyromidal 構造の“結晶場分裂“と“apical Mn-Oの結合長”に起因すると考えられている。この研究成果は、安価、資源が豊富、環境に優しい、化学的に安定な青色顔料の発展へとつながる可能性があります。
第19回 (1/8)田辺 賢士(小野研、M2)
"Phase-locking of magnetic vortices mediated by antivortices" A. Ruotolo,et al., Nature Nanotechnology 4, 528(2009).
スピンバルブ素子ではスピントルクによる磁化の振動現象が知られており、ナノサイズの発信器の可能性が指摘されている。しかし、低電力という問題点を抱えており、高電力化への研究が期待されている。今回紹介する論文は磁気渦と呼ばれる磁化構造の振動を4つ同時に同周波数、同位相で振動(フェイズロック)させることで高出力化を目指したものである。コンデンサもインダクタも必要としない発信器の可能性が期待できる。
第20回 (1/15)遠山 武範(島川研、M2)
"Coexistence of Weak Ferromagnetism and Ferroelectricity in the High Pressure LiNbO3-Type Phase of FeTiO3" T. Varga,et al., Phys. Rev. Lett. 103, 047601-4 (2009).
強誘電性と(反)強磁性などを併せ持つ物質はマルチフェロイックと呼ばれる。特に誘電性と磁性の間に相関がある場合には、新奇メモリーや磁気センサーなどの工業的な応用が期待されるほか、基礎研究の視点からも非常に興味深い。磁性強誘電体の例には、代表的なものにペロブスカイト型Mn酸化物やBiFeO3があるが、しかしその数は少ないのが現状である。本論文ではLiNbO3型構造を持つFeTiO3を高圧合成し、その誘電特性と磁気特性の評価を行った。その結果、この物質が同時に強誘電性と弱強磁性を持つことを示した。マルチフェロイック材料に新たな物質群を加える結果となったが、残念ながら、筆者らが示したかった強誘電性が弱強磁性を誘起している明確な証拠を得ることは出来ていない。