2012 年度
第1回 (5/18)平松 亮(小野研、D1)
"Direct observation of the coherent precession of magnetic domain walls propagating along permalloy nanowires ", M. Hayashi,et al., Nature Physics, vol3, January, 21 (2007).
強磁性体細線中の磁壁駆動研究では駆動力に応じて、磁壁駆動が単純な移動から複雑な歳差運動を伴う移動に変化することが知られている。実験的には転移点で磁壁移動速度が急激に低下することから、間接的な証拠として得られている。しかし、直接的な歳差運動の検出は未だなされていない。本論文では、準静的な測定と実時間測定手法を組み合わせることで、磁壁移動が構造の周期的な変化を伴うことを明らかにした。
第1回 (5/18)松本 和也(島川研、D3)
"P2-type Nax[Fe1/2Mn1/2]O2 made from earth-abundant elements for rechargeable Na batteries", N. Yabuuchi,et al., Nature Materials, 29, April (2012).
リチウムイオンバッテリーは電子機器用のみならず自動車用の電源としても利用されるなど、近年幅広く利用されています。
しかし、その主要要素であるリチウムの埋蔵量は非常に少ないものであり、電極材料にもコバルトやニッケル等のレアメタルが使用されています。本研究では、リチウムの代わりに無尽蔵な資源であるナトリウムを使用して常温で動作する電池を作成することに成功しています。さらに、電極材料鉄とマンガンの酸化物を用いることによって、高い特性を示すレアアースフリーな電池をできることを報告しています。
第2回 (5/25)遠山 武範(島川研、D3)
"Metallic Quantum Well States in Artificial Structures of Strongly Correlated Oxide", N. Yabuuchi,et al., Science 333, 319-322 (2011).
低次元電子系物質は、銅酸化物の高温超伝導をはじめ、三次元物質では見られない興味深い物性を示す。このような低次元物質の電子状態を調べる手法として、光電子分光(PES)の一種である角度分解光電子分光(ARPES)が有用な手法として利用されている。本論文ではレーザー蒸着によってSrVO3極薄膜を作製し、そのARPES測定を行ってバンド構造を調べている。その結果、このSrVO3薄膜は量子井戸構造をとっていることが分かった。強相関酸化物の量子井戸構造の作製は、本研究が世界で初めてである。さらにこの構造は、V3d軌道が選択的に量子化され、電子の有効質量が増大するという、興味深い特徴が現れている。
第2回 (5/25)知田 健作(小野研、D3)
"Unraveling the Spin Polarization of the ν = 5/2 Fractional Quantum Hall State", L. Tiemann, et al., Science 335, 828 (2012).
本論文で著者らは5/2分数量子ホール状態という非常に純度の高い半導体結晶中においてのみ実現される特殊な電子状態を、高感度核磁気共鳴(NMR)法により測定することで、フェルミ粒子やボーズ粒子とは異なる統計性を持つ非アーベリアン準粒子の
存在が期待される電子状態を世界で初めて解明しました。本論文の成果はエラー発生率が非常に低い新しい手法の量子計算(トポロジカル量子計算)の実現を期待させるものです。
第3回 (6/1)Kim, Kab-Jin(小野研、博士研究員)
"Patterning by controlled cracking", K. H. Nam, et al., Nature 485, 221 (2012).
Crack propagation in materials is rarely welcome for most of the people. So, people generally have interested ‘how to avoid it’. However,Here, the authors think creatively that ‘How to control and use the crack.’
Nam et al. present a technique to pattern the nanostructure by using the controlled cracking.
They demonstrated that the controlled initiation, propagation and termination of a crack are possible in film/substrate system. By using this technique, it is possible to fabricate the nano-structure with high controllability and repeatability. Since it is compatible with existing silicon-based technology, this technique can provide alternative way for nanofabrication with simple, fast and cheap manner, which would be difficult even with current state-of-the-art technologies.
第3回 (6/1)張 守宝(島川研、PD)
"Possible valence-bond condensation in frustrated cluster magnet LiZn2Mo3O8", J. P. Sheckelton, et al., Nature Materials 11, 493-496 (2012).
In this paper, they reported the synthesis and characterization of LiZn2Mo3O8, a geometrically frustrated antiferromagnet in which the magnetic moments are localized on small transition-metal clusters rather than individual ions. Their results show how an extended lattice of magnetic clusters, in place of magnetic ions, produces exotic physics while providing numerous advantages in the design and control of magnetically frustrated materials. This approach opens a new chemical frontier in the search for emergent phenomena in frustrated systems.
第4回 (6/8)陳 威廷(島川研、PD)
"An oxyhydride of BaTiO3 exhibiting hydride exchange an electronic conductivity", Y. Kobayashi, et al., Nature Materials 15, April (2012).
The anion-substitution in oxides with non-oxide anions, such as F-, S2- and N3-, has attracted much attention recently due to their potential new properties. The substitution of hydride anion H- of oxide, however, is less reported due to the difficulty of the sample preparation. The authors successfully introduced H- into BaTiO3 perovskite, forming BaTiO3-xHx solid solution oxyhydrides with CaH2. The solid solution is stable in air in ambient condition, and shows electronically conducting behavior. This work indicates that the family of oxyhydrides of perovskite may be further expanded, and more intriguing properties may be introduced.
第4回 (6/8)吉村 瑶子(小野研、M2)
"Conversion of spin current into charge current at room temperature: Inverse spin-Hall efect", E. Saltoh, et al., Applied Physics Letters 88, 182509 (2006).
電子は「電荷」と「スピン」の二つの自由度を持っています。これまでエレクトロニクス分野では「電荷」のみが利用されてきましたが、これに「スピン」を加えたスピントロニクス分野の研究が近年盛んに行われています。スピンの流れはスピン流と呼ばれますが、その生成、検出技術は十分確立しているとは言いがたいのが現状です。本論文では、スピンポンプ法によるスピン流生成と、スピンホール効果の逆過程である、逆スピンホール効果を利用した、スピン流の電気的検出に成功したことが報告されています。
第5回 (6/15)菅 大介(島川研、助教授)
"Measuring oxygen reduction/evolution reactions on the nanoscale ", Amit Kumar, et al., Nature chemistry 14, AUGUST (2011).
酸素還元反応の発生及びその進展の理解が燃料電池の効率化といったエネルギーデバイスの発展に重要であることはこれまでのマクロなスケールでの研究結果から広く認識されてきました。しかしながらナノスケールでの酸素還元反応の発生及びその進展に関する知見はほとんど得られていないのが現状です。本論文は、走査型プローブ顕微鏡を用いて電気化学過程で誘起されるストレインを測定することで、ナノスケールにおける酸素還元反応過程の観測に成功したことを報告しています。
第5回 (6/15)田辺 賢士(小野研、D3)
"Spin Transfer Torques in MnSi at Ultralow Current Densities ", F. Jonietz, et al., Science 330, 1648 (2010).
近年、ねじれた磁化構造が活発に研究されている。磁壁や磁気渦、らせん磁化などはその代表であるが、特に新しい磁化構造、“スカーミオン”が注目を集めている。スカーミオンはもともとスカームが核子のモデルとして提案したものであるが、磁化構造の中でも現れることが示され、実験的にも報告されている。 これらの磁化構造のねじれと電流(電界)との関係は特に興味深い。電流による磁化構造の制御や電気分極と磁化の強い結合を示すマルチフェロイックの研究はその代表であり、低消費電力の磁気メモリなどへの応用が期待されており注目されている。
今回紹介する論文はスカーミオンに電流印加すると磁化構造がどのように変化するか調べたものであり、特に温度勾配下でスカーミオンが回転したことを報告している。
第6回 (6/22)河口 真志(小野研、M2)
"Acoustically Induced Spin-Orbit Interactions Revealed by Two-Dimensional Imaging of Spin Transport in GaAs ", H. Sanada, et al., Phys. Rev. Lett. 106, 216602 (2011).
物質の表面に伝わる音波である表面弾性波を用いて電子を輸送する試みが盛んに行われています。また一方で、スピン軌道相互作用を利用してスピンを操作することにも注目が集まっています。それら二つを結び付けているのが本論文です。本論文では、表面弾性波を用いてスピンを良く保った状態で電子を輸送し、同時に、表面弾性波のもたらす歪みとそれによる圧電効果に由来する電場を用いてスピン軌道相互作用を操作し、輸送されていくスピンが歳差運動をする様子を捉えたことを報告しています。
第6回 (6/22)齊藤 高志(島川研、助教授)
"Mn(I) in an Extended Oxide: The Synthesis and Characterization of La1-xCaxMnO2+δ (0.6 ≦ x ≦ 1)", E. Dixon, et al., JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY 133, 18397-18405 (2011).
SrFeO3-dをCaH2で還元すると無限層構造SrFeO2が得られることが報告されてから、様々な酸化物のCaH2還元が試みられてきた。本論文ではLa1-xCaxMnO3をCaH2還元することにより、酸化物としては初めて一価マンガンイオン(Mn+)を有する化合物La1-xCaxMnO2+δが得られたことを報告している。乱れが多いこの化合物の結晶構造の評価にReverse Monte Carlo法が用いられており、この手法についても紹介する。
第7回 (6/29)永田 真己(小野研、D1)
"Spin-torque diode effect in magnetic tunnel junctions", A. A. Tulapurkar, et al., Nature letters 438|17, November (2005).
スピントロニクスの研究において、高周波応用の分野が開拓されてきている。そのひとつとしてスピントルクダイオード(STD)があげられる。STDとは、磁気トンネル接合(MTJ)に高周波電流を流し歳差運動を引き起こすことで、高周波電流の整流を行うことができるデバイスである。著者らはFeCoB/MgO/FeCoBのMTJ素子に4~10 GHz程度の高周波電流をながすことにより、STDによる整流効果を実験的に観測することに成功し、そのメカニズムについて考察した。そのメカニズムは既存の半導体ダイオードとは異なり、共鳴時の磁化のダイナミクスを利用していることが分かった。STDは高周波領域における新しいスピントロニクスデバイスであり、将来的に半導体ダイオードの性能を上回る可能性があると著者らは主張している。
第7回 (6/29)清水 卓也(島川研、M2)
"Atomic structure of conducting nanofilaments in TiO2 resistive switching memory", Deok-Hwang Kwon, et al., Nature nanotechnology 17, JANUARY (2010).
印加電圧の大きさにより抵抗値がかわる抵抗変化型メモリーはReRAMとよばれ、高集積・高速・低消費電力なため次世代メモリーとして注目されている。ReRAMの抵抗スイッチングにはフィラメント状の導通経路が大きく寄与する事が知られているが、直接的には観測されていなかった。本論文ではTiO2を用いたReRAMにおいてスイッチングによるフィラメント状のマグネリ相(TinO2n-1)の形成と崩壊を観測した。
第8回 (7/6)西 仁実(島川研、M2)
"Phase control through anisotropic strain in Nd0.5Sr0.5MnO3 thin films", Masao Nakamura, et al., APPLIED PHYSICS LETTERS, 86, 182504 (2005).
ぺロブスカイト型Mn酸化物は磁場や電場等外場の印加によって抵抗率が変化する特性がありデバイスへの応用が期待される。このような外場への応答は電荷−軌道秩序(COO)状態が関与しており、薄膜でもCOO状態を実現する試みがなされてきたが、はっきりした金属−絶縁体転移は観測されていなかった。本研究では、面方位の異なるSTO基板上にNd0.5Sr0.5MnO3エピタキシャル薄膜を作成し、COO状態へのストレイン効果の影響を検証した。その結果、面方位(110)基板上の薄膜でのみ強磁性-反強磁性転移および金属−絶縁体転移が確認されたことを報告している。また、これらの転移の実現にはNdドープ量の緻密な制御が必要であることも報告している。
第8回 (7/6)小野 輝男(小野研、教授)
"Coulomb Blockade Anisotropic Magnetoresistance Effect in a (Ga,Mn)As Single-Electron Transistor", J. Wunderlich, et al., Phys. Rev. Lett., 97, 077201 (2006).
強磁性半導体(Ga,Mn)Asから作製された単一電子トランジスタの論文です。(Ga,Mn)Asの磁化方向を変えると異方性エネルギーの変化によって系の化学ポテンシャルが変化します。この変化が単一電子トランジスタのクーロン閉塞の変調として検出されています。つまり磁化方向がもう一つのゲートとして働くことが明らかにされています。
第9回 (7/13)山田 まりな(島川研、M2)
"Catalytic activities and coking resistance of Ni/perovskites in steam reforming of methane", K. Urasaki, et al., Applied Catalysis A: General 286 (2005) 23-29.
水素を生成する方法の一つとして、メタンの水蒸気改質が挙げられる。一般的にはNi/Al2O3系触媒が用いられてきたが、この触媒では炭素析出による活性の劣化などの問題があった。そこで著者らは、種々のNi/ペロブスカイト系触媒を作成し、その活性や安定性を比較した。活性試験の結果、Ni/LaAlO3は安定した活性を示した。著者らはペロブスカイト担体中の格子酸素が炭素の前駆体であるCHxを酸化する役割を果たしていると考察している。
第9回 (7/13)田中 崇大(小野研、M2)
"Coherent oscillations in a superconducting tunable flux qubit manipulated without microwaves", S. Poletto1, et al., New Journal of Physics 11 (2009) 013009 (10pp).
巨視的量子コヒーレンス(MQC)とは巨視的な物体が2つ以上の等価な準位の間をコヒーレントに振動する現象である。これは巨視的な物体に量子力学が適用できるかといった問題で興味が持たれており、超伝導量子ビットなどを用いて研究されてきた。超伝導磁束量子ビットではこれまでマイクロ波を照射することで、量子コヒーレンスを作り出していた。本論文では、超伝導磁束量子ビットを用いて、マイクロ波を用いずに量子コヒーレンスの観測に成功している。
第10回 (7/20)荒川 智紀(小野研、D2)
"Progressive field-state collapse and quantum non-demolition photon counting", C. Guerlin, et al., Nature Vol 448|23 August (2007).
Serge Haroche等のグループは超伝導共振器中の電磁波の量子状態を非破壊で測定するという研究を長年にわたって行っている。彼らの研究は一貫しておりどれも美しい。本雑誌会では彼らの測定系の測定原理といくつかの主な結果を紹介する。特に、基本的な電磁波の量子状態であるフォック状態の測定は、これまでに誰もが学んだ基本的な量子力学と直結する結果である。
第10回 (7/20)千葉 大地(小野研、准教授)
"Spin-Torque Ferromagnetic Resonance Induced by the Spin Hall Effect", L. Liu, et al., Phys. Rev. Lett. 106, 036601 (2011).
この論文では、Pt薄膜中のスピンホール効果(SHE)が、隣り合うNiFe強磁性薄膜における磁化の歳差運動を引き起こすことが述べらています。Pt/NiFe bilayerにrf電流を流すと、Pt層中にスピンホール効果を通してrfスピン流が生成されます。これがNiFe層に流れ込むと、角運動量が受け渡され、強磁性共鳴(FMR) を引き起こします。rfエルステッド磁場もFMRを誘起しますが、両者は周波数に対して異なる応答をするため、そのシグナルの比からNiFe層に流れ込んだスピン流とスピンホール角の定量評価が可能となります。
第11回 (10/5)西原 禎孝(小野研、D1)
"Coherent control of macroscopic quantum states in a single-Copper-pair box", Y. Nakamura, et al., Nature 398, 786 (1999).
過去10年以上に渡り ”特異な性質を示す量子力学を用いることで、演算や保存、送信といった情報科学を発展させることができるか” という問いに対する答えが、量子情報科学において探求されてきた。そして今日、世界中の多くのグループでその技術的な終着点としての量子コンピュータの完成を目指して研究が行われており、それらは個々の努力により良い成果が得られている。今回紹介する論文は、その中で、超伝導ジョセフソン接合回路が基本単位である量子ビットとして利用できることを示したものであり、固体素子における量子ビット研究の出発点である。
第11回 (10/5)山田 まりな(島川研、M2)
"Synthesis, Structural Transformation, Thermal Stability, Valence State, and Magnetic and Electronic Properties of PbNiO3 with Perovskite- and LiNbO3-Type Structures", Y. Inaguma, et al., J. Am. Chem. Soc., 133, 16920-16929 (2011).
LiNbO3型構造は頂点共有した八面体骨格を持つという点においてペロブスカイト型化合物と共通している。 LiNbO3型構造のいくつかは、高圧下においてペロブスカイト相へ構造相転移することが確認されている。その一つであるPbNiO3は、高圧合成により、ペロブスカイト相として得られるが、熱処理によって、LiNbO3相への相転移を常圧下で起こす数少ない物質である。今回著者らは、この化合物の常圧下での熱処理によるペロブスカイト相からLiNbO3相への相転移の様子に加えて、物性の調査を行った。
第12回 (10/12)西 仁実(島川研、M2)
"Variation of charge-ordering transitions in R1/3Sr2/3FeO3(R=La, Pr, Nd, Sm, and Gd)", S. K. Park, et al., Phys. Rev. B VOLUME 60, NUMBER 15 (1999).
強電子相関系の遷移金属酸化物には、高温超伝導体である銅酸化物や巨大磁気抵抗を示すマンガン酸化物など様々な物性のものがある。このような酸化物では、電荷・スピン・軌道の秩序化(あるいは無秩序化)が金属-絶縁体転移に重要な役割を担っている。中でも電荷秩序-無秩序転移は長きにわたり研究されてきたが最近関心を集めている。(1999年当時) 著者らは電荷秩序(CO)を形成するR1/3Sr2/3FeO3の系に着目した。この系では、Rに入る金属原子による格子歪みがO2p軌道とFe3d軌道の混成具合やそれによるFe d電子の移動しやすさを変化させている。本論文では単結晶のR1/3Sr2/3FeO3について透過電子顕微鏡画像によるCOの確認、輸送特性・磁気特性・光物性の評価を行い、O2p軌道とFe3d軌道の混成の強さと電荷秩序転移・電気特性・磁気特性との相関について報告している。
第12回 (10/12)島村 一利(小野研、D3)
"Surface Ferromagnetism of Pd Fine Particles", T. Shinohara, et al., Phys. Rev. Lett. 91, 197201, (2003).
室温で強磁性を示す、元素がいくつあるかご存知ですか?キュリー温度が20度にあるガドリニウムという元素を除けば鉄、コバルト、ニッケルの三つしかありません。これは少ないと思いませんか。パラジウムという元素は常磁性を示しますが強磁性に限りなく近い元素ということが知られています。著者らはパラジウムという元素を微粒子に加工することによって、室温で強磁性を示すことを直接的に観測することに成功しました。
第13回 (10/19)吉村 瑶子(小野研、M2)
"Controlled Normal and Inverse Current-Induced Magnetization Switching and Magnetoresistance in Magnetic Nanopillars", M. AlHajDarwish, et al., Phys. Rev. Lett. 94, 15, (2004).
磁場を加えたときに電気抵抗が変化する現象を磁気抵抗効果(magnetoresistance;MR)と言います。スピン偏極した電流によって強磁性金属の磁化が回転することを、電流誘起磁化反転(current-induced magnetization switching; CIMS)と言います。今回紹介する論文では、強磁性金属(F1)/非磁性金属(N)/強磁性金属(F2)の3層膜において、強磁性金属の組み合わせを変えることで、MRやCIMSが反対になることが報告されています。また、筆者らはMRやCIMSが反対になるかは、強磁性金属中で上向きと下向きのどちらのスピンが散乱されやすいか(spin anisotropy)から予測できることを報告しています。
第13回 (10/19)市川 能也(島川研 特定助授)
"Lowering the temperature of solid oxide fuel cells", Eric D. Wachsman, et al., Science 334, 935-939 (2011).
燃料電池は燃焼効率極限(Carnotサイクルの効率)を超えられる他に例を見ないものである。中でも固体酸化物燃料電池(SOFC)は今日使われている従来の燃料(水素を含む)で動作することができることが特徴である。SOFCの中心課題は動作温度が高い(~800°C)ことであり、そのため使われる材料やコストに制限があると同時に動作が複雑である。本レビューはSOFCの低温動作のメリットと現在までに到達した技術レベル、およびさらなる低温化に必要な課題を解説している。
第14回 (10/26)清水 卓也(島川研 M2)
"A fast, high-endurance and scalable non-volatile memory device made from asymmetric Ta2O5-x/TaO2-x bilayer structures", Myoung-Jae Lee, et al., Nature Materials 10, JULY (2011).
印加電圧の大きさにより抵抗値がかわる抵抗変化型メモリーはReRAMとよばれ、高集積・高速・低消費電力なため次世代メモリーとして注目されている。本研究ではPtとTaOxを用いReRAMを作製したが、クロスバーアレイを利用することによって省電力と1012回もの高耐久性を実現した。また、ショットキーバリアを持つ素子を反転させて二重にして用いることによってのリーク電流を抑制できることを発見した。
第14回 (10/26)田中 崇大(小野研 M2)
"Control of Spin Precession in a Spin-Injected Field Effect Transistor", Hyun Cheol Koo, et al., Science 325, 1515 (2009).
スピンFETは1990年に、S.DattaとB.A.Dasによって提案された。このデバイスは,構造は従来のFETに似ているが、電荷ではなくスピンを制御することで電流のオンオフを切り替えている。本論文ではNiFe/InAs/NiFe面内スピンバルブ構造において、非局所測定を行っている。その結果、ゲート電圧によってスピンの制御が可能であることを示した。
第15回 (11/2)河口 真志(小野研 M2)
"Direct observation of a widely tunable bandgap in bilayer graphene", Yuanbo Zhang, et al., Nature Letters Vol 459, 11 June (2009).
ダイオード、レーザー、トランジスタ等の様々な半導体デバイスでは、バンドギャップがその性質を決定付けています。本論文では、二層グラフェンを材料として、その上下につけたゲート電極から絶縁体を通して電圧を加えることでバンドギャップの大きさを制御することに成功しています。この結果は大きな制御性を持った新たなデバイスとしての応用につながると著者らは述べています。
第16回 (11/9)上田 浩平(小野研 D2)
"Nanoscale SpinWave Localization Using Ferromagnetic Resonance Force Microscopy", Han-Jong Chia, et al., Phys. Rev. Lett., 108, 087206 (2012).
著者たちは、薄い強磁性薄膜上で磁性カンチレバーチップから生じるダイポールフィールドを使用し、局 在スピン波モードを得ます。その局在モードから複数の共鳴が強磁性共鳴プローブ顕微鏡(FMRFM)によって検出され、マイクロマグネティックモデルにより再現されました。最後に、低周波モードによりテスト欠陥を解析することで分解能が磁場方向、磁場垂直方向それぞれに94.5±1.5 nmと390±2 nmと見積もったことを報告しています。
第16回 (11/9)甚目 洸志(島川研 M1)
"Superconducting Phase at 7.7 K in the HgxReO3 Compound with a Hexagonal Bronze Structure", Kenya Ohgushi, et al., Phys. Rev. Lett., 106, 017001 (2011).
六方晶系ブロンズ型構造の酸化物は様々な物質が合成されているが、大部分の物質は詳細な物性は分かっていない。近年、六方晶系ブロンズ型構造を持つ多くの物質で超伝導を発現することが確認されている。本論文では水銀を含んだ六方晶系ブロンズ型構造のHgxReO3を高圧合成で作成し、物性の調査を行った。その結果、同型の構造の化合物では最も高いTc=7.7K(4GPaの圧力下では11.1K)を発現することを発見した。著者らは、この理由を格子中の水銀が珍しい(Hg2)2+カチオンのようになっており、格子中の水銀原子のラットリング振動が超伝導温度を高くしたと考えている。
第17回 (11/16)松尾 貞茂(小野研 D2)
"Observing the Average Trajectories of Single Photons in a Two-Slit Interferometer", Sacha Kocsis, et al., Science, 332, 1170-1173, (2011).
二重スリットの実験において、粒子がどのような軌跡を通って干渉縞を作っている
のかを測定することは不確定性関係から不可能であると考えられていた。しかし、トロント大学のsteinbergらのグループは弱測定と呼ばれる手法を用いることで軌跡の測定に成功した。この論文は量子力学を理解するうえで非常に有益な実験結果を与えていると考えられる。
第17回 (11/16)島川 祐一(島川研 教授)
"LixCoO 2 (0<x≦l): A NEW CATHODE MATERIAL FOR BATTERIES OF HIGH ENERGY DENSITY", K. Mizushima, et al., Mat. Res. Bull., Vol. 15, pp. 783-789, (1980).
情報化社会の中心ともいえる携帯機器の発達、更に近年のエネルギー・環境問題への対応で「電池」が大きな注目を集めています。今年度の雑誌会でも既に何度か電池材料に関する論文が取り上げられました。
表題の論文は、現在、携帯機器などの電源として広く用いられているリチウムイオン2次電池を最初に報告したものです。この論文を元に、もう一度、電池についての基本を改めて振り返り、今後の研究展望を考えてみたいと思います。
第15回 (11/30)保坂 祥輝(島川研 M1)
"Time-Resolved in Situ Studies of Oxygen Intercalation into SrCoO2.5, Performed by Neutron Diffraction and X-ray Absorption Spectroscopy", Ronan Le Toquin, et al., J. AM. CHEM. SOC., 128, 13161-13174. (2006)
著者らは電気化学的手法を用いてSrCoO2.5をSrCoO3.0に酸化し、その過程をin situ中性子回折やin situX線吸収で観察しました。それらの結果からSrCoO2.5とSrCoO3.0のあいだには中間相としてSrCoO2.75とSrCoO2.82の二つの酸化状態があることがわかり、その構造モデルを報告しています。
第15回 (11/30)平井 慧(島川研 D1)
"A red metallic oxide photocatalyst", Xiaoxiang Xu, et al., Nature Materials 29 APRIL (2012).
半導体において電子が価電子帯から伝導体へと、バンドギャップを超える光吸収に伴って起こる現象は、光起電力効果や光触媒などがあり多くの分野で応用されている。一方、金属においてはバンドギャップがないため、上記のような現象は起こりにくいものと考えられてきた。本研究では、金属であるものの濃い発色(赤色)を持つSr1-xNbO3ペロブスカイト型酸化物で光触媒活性があることを初めて示した。また、Ptなどの触媒を添加することで光触媒活性が向上することも報告している。
第16回 (12/14)畑 拓志(小野研 D1)
"Interaction between propagating spin waves and domain walls on a ferromagnetic nanowire", J.-S. Kim, et al., PHYSICAL REVIEW B 85, 174428 (2012).
強磁性細線中の磁壁を移動させる方法として、磁場を用いる方法、およびスピントルクを用いる方法がこれまでよく知られていた。近年、新しい磁壁の駆動方法として、スピン波による磁壁移動が提案されている。スピントルクを用いる場合には電流によるジュール熱が発生するが、スピン波の場合には発生しないという特徴を持つ。本論文は、シミュレーションを用いてスピン波による磁壁移動の物理機構を考察している。
第16回 (12/14)村上 永晃(島川研 M1)
"Colossal Ionic Conductivity at Interfaces of Epitaxial ZrO2:Y2O3/SrTiO3 Heterostructures", J. Garcia-Barriocanal, et al., Science 321, 676 (2008).
固体酸化物燃料電池(SOFC)は汚染が少なく高効率で発電できるなどのメリットがありますが、その一方で動作温度を下げることが求められています(現在は700程度)。著者らは、室温付近で従来の8倍もの酸素イオン伝導率を持ったYttria-Stabilized Zirconia (YSZ)とSrTiO3(STO)の超格子を作ることに成功しました。この高い酸素イオン伝導率はYSZ/STO界面に由来するもので、電気伝導率とは独立にふるまいます。蛍石構造であるYSZとペロブスカイト構造であるSTOの界面では原子配置がバルク状態とは異なっているために、多数のキャリアが供給され移動度の高い界面が実現されているのではないかと著者らは言及しています。
第17回 (12/21)柿堺 悠(小野研 M1)
"Voltage-gated modulation of domain wall creep dynamics in an ultrathin metallic ferromagnet", Uwe Bauer, et al., Appl. Phys. Lett. 101, 172403 (2012).
本論文ではPt/Co/GdOxの垂直磁気異方性を有する薄膜の磁壁のクリープダイナミクスについて、ゲート電圧・温度・磁場の影響をscanning magneto-optical Kerr effect(走査型磁気光学カー効果)を用いて調べています。Co/GdOxの界面にゲート電圧によって電界を印加することで、活性化エネルギーの障壁を線形に変調させて磁壁のクリープ速度をコントロールすることができます。クリープ速度が遅い場合、電圧によってクリープ速度は著しく変化しますが、クリープ速度が速くなるにつれてその効果が減少することが明らかになりました。これにより、クリープ速度が速いときの磁壁の電界制御が制限されてしまうことを本論文では明らかにしました。また、クリープ速度を表す式にゲート電圧の項を取り込むことで実験事実を説明しています。
第17回 (12/21)山田 貴大(小野研 M1)
"Materials for electrochemical capacitors", Patrice Simon and Yury Gogotsi, Nature Materials 7 NOVEMBER (2008).
再生可能なエネルギー資源を求める声の高まりを受けて、エネルギー貯蔵システムは大きな注目を集めている。エネルギー貯蔵システムの代表は電池であると一般的には知られている一方で、電気化学キャパシタ(Electrochemical Capacitors)も電池とは違う特徴を持ち多分野での応用が期待されているシステムである。高パフォーマンスの電気化学キャパシタを実現するには、その電荷の貯蔵メカニズムと素材に関しての理解が欠かせない。今回はそれに触れるとともに、電気化学キャパシタの応用可能性にも着目していくつもりである。