2014 年度
第1回 (5/16)
西原 禎孝 (小野研、D3)

"Financial Brownian Particle in the Layered Order-Book Fluid and Fluctuation-Dissipation Relations"
Y. Yura, et al., Phys. Rev. Lett., 112, 098703 (2014).

社会と経済は、科学者が対象とする物質と力の世界と比較して、とらえどころが難しいものとして認識されているように思います。しかし、そこに物理学的、数学的手法を導入することで解明しようと試みることは、自然な流れではないでしょうか。今回紹介する論文では、外国為替市場の取引価格に着目し、それが特徴的なBrown粒子のように振舞うことを明らかにしました。この成果は、今後、市場をリアルタイムで解析し、市場の安定性を計測できる技術に応用されることが期待されます。

平井 慧 (島川研、D3)
"Large thermoelectric power in NaCo2O4 single crystals"
I. Terasaki, et al., Phys. Rev. B, 56, R12685(R) (1997).

近年、熱電変換は廃熱を有効利用する技術として注目を浴びています。古典的な半導体理論に基づいた設計指針に沿って1990年代までに開発された既存の熱電材料はBi, Te, Pbなどの元素を含む半導体であり、キャリア移動度が低い酸化物は熱電材料には適していないと考えられてきました。今回紹介する論文は、キャリア移動が低い酸化物でも高い熱電特性を示すことを発見し、いままでの常識を覆すとともに酸化物による熱電材料の可能性を提示するきっかけとなった論文です。

第2回 (5/30)
神屋 道也 (小野研、M2)

"Size Dependence of Domain Pattern Transfer in Multiferroic Heterostructures"
K. J. A. Franke, et al., Phys. Rev. Lett., 112, 017201 (2014).

マルチフェロイックヘテロ構造の界面における電気磁気結合は磁気異方性の横方向の変調を生み出し、これにより強誘電性ドメインを強磁性薄膜に移すことができます。しかし、交換相互作用と静磁的な相互作用は強磁性薄膜においてそのような磁区の生成を阻害します。そのために、ある値よりも磁区が小さいときは、磁気異方性よりも磁区の生成を阻害する作用が大きくなりドメインパターンの転写が起こらなくなることがマイクロマグネティックシミュレーションから示されました。このシミュレーションによる予測を裏付けるために、筆者たちはCoFeB/BaTiO3のヘテロ構造における実験を行いました。このシミュレーションと実験の結果について報告します。

菅 大介 (島川研、助教)
"Wireless Solar Water Splitting Using Silicon-Based Semiconductors and Earth-Abundant Catalysts"
S. Y. Reece, et al., Science, 334, 645 (2011).

太陽エネルギーを化学エネルギーに変換可能な技術の開発が盛んです。その中でも、光によって水を分解して酸素と水素を生み出すことができる人工光合成は、温室効果ガスの発生を伴わずにエネルギー源を生み出す技術として注目を集めています。本論文では、アモルファスシリコン太陽光発電素子と触媒を組み合わせることで人工光合成に成功し、その効率は最大4.7%であったことを報告しています。

第3回 (6/6)
森山 貴広 (小野研、助教)

"Graphene As a Tunnel Barrier: Graphene-Based Magnetic Tunnel Junctions"
E. Cobas, et al., Nano Letters, 12, 3000 (2012).

近年DRAMを置き換えるべく、次世代磁気メモリ(磁気ランダムアクセスメモリ:MRAM)の実用化に向けて研究・開発が盛んに行われている。強磁性トンネル接合はMRAMの重要構成要素であり、トンネル接合の特性によってMRAMの特性が左右されるといっても過言ではない。一般的に低抵抗・高磁気抵抗が望ましいといわれているが、従来の酸化物トンネルバリア材料を用いた場合、低抵抗化は特に困難な課題である。 本論文は、トンネルバリアに単原子膜であるグラフィーンを用いたトンネル接合を報告している。単原子膜でもトンネル特性を示し、トンネル磁気抵抗を観測した。本研究により、グラフィーンのような面直方向に導電性を持たない二次元結晶が最薄のトンネルバリアとして機能することを実証した。

関 隼人 (島川研、D2)
"Robust high-κ response in molecularly thin perovskite nanosheets"
M. Osada, et al., ACS Nano, 4, 5225 (2010).

ペロブスカイト薄膜におけるサイズ効果による誘電率の低下は、ここ数年未解決の問題です。電子デバイスの小型化により、小さくても高い誘電率をもつコンデンサが求められ、そのためにはサイズ効果は大きな問題となります。この原因の1つは、デッドレイヤー(低誘電率層)によるものです。本論文では層状化合物を単相剥離することにより得たペロブスカイトナノシートをSrRuO3、Pt基板の上に作製し、デッドレイヤーのない、高い誘電率を持つ多層膜の作製に成功しました。この高い誘電率は膜厚が10 nm以下でも見られ、リーク電流も低い値となりました。本実験の結果は、より高い誘電率のデバイスを目指す上で必要な、サイズ効果のないペロブスカイト薄膜を作製した論文です。

第4回 (6/13)
佐藤 理子 (島川研、M2)

"Preventing the Reconstruction of the Polar Discontinuity at Oxide Heterointerfaces"
H. Boschker, et al., Adv. Funct. Mater., 22, 2235 (2012).

酸化物ヘテロ界面には極性不連続の存在するものがあり、界面の再構成が生じる。しかし、多くの物質においてこの再構成は望まれていないため、取り除く方法が求められた。強磁性金属La0.67Sr0.33MnO3 (LSMO)と絶縁体SrTiO3 (STO)とのヘテロ界面は多く研究されてきたが、LSMOの磁化と電気伝導度はLSMO/STO界面において低下することが知られている。この現象は界面のデッドレイヤーによるものである。本論文では、LSMO/STO界面にLa0.33Sr0.67O単原子層を挿入する界面エンジニアリングにより、極性不連続が補正され、界面の再構成は抑えられたとしている。これにより、通常のLSMO/STOヘテロ構造と比較して磁化と電気伝導度が改善された。

平松 亮 (小野研、D3)
"Voltage-controlled domain wall traps in ferromagnetic nanowires"
U. Bauer, et al., Nature Nanotechnology, 8, 411 (2013).

強磁性金属の磁性を電界効果により制御する研究が活発に行われている。今までに保磁力、磁気異方性の変調などが報告されており、電界効果を利用した磁化方向の制御や磁壁移動速度の制御など、デバイス応用が期待されている。今回紹介する論文では、電界効果により強い磁壁トラップを作り出せることを報告し、その原因が非磁性体/強磁性体の界面状態の変化であることを明らかにした。さらに、電界効果と磁壁駆動を利用した不揮発性メモリデバイスへの応用を報告している。

第5回 (6/20)
永田 真己 (小野研、D3)

"Electronic spin transport and spin precession in single graphene layers at room temperature"
N. Tombros, et al., Nature, 448, 571 (2007).

2004年のK. Novoselov, A. Geimによるグラフェンの発見以来、単層ないし数層のグラフェンにおける電子輸送現象に多大な興味が持たれてきました。ホールとエレクトロンを隔てるディラック点を有するグラフェンは、非常に高い移動度や室温における量子ホール効果が観測され、特異な伝導電子輸送現象を有する物質として興味が持たれてきました。エレクトロニクス材料としてだけではなく、スピントロニクス材料としてもグラフェンは非常に有望であると目されています。伝導電子が受けるスピン軌道相互作用が小さいことからスピン拡散長が非常に長くなることが期待されるからです。本論文は、グラフェンにおけるスピン輸送現象を世界的に初めて報告した論文であり、著者らはスピンバルブ構造に素子加工したグラフェンを用いることにより、グラフェンにおけるスピン流の輸送に成功しました。

黒崎 諒 (島川研、M2)
"Dual functional modification by N doping of Ta2O5: p-type conduction in visible-light-activated N-doped Ta2O5"
T.Morikawa, et al., Appl. Phys. Lett., 96, 142111 (2010).

光触媒反応は水の光分解だけではなく、二酸化炭素の還元による有機物合成の可能性を持つ。二酸化炭素還元を促進する光触媒には、半導体と金属錯体がある。しかし、それぞれが欠点を持っており、それらを補うために二つを組み合わせた光触媒が提案されている。この光触媒の半導体部分には還元力の強いp型半導体であること、幅広い波長領域の光を吸収することが求められている。今回紹介する論文はその半導体部分の開発を目的としており、Ta2O5にNをドープすることでn型からp型に、そして吸収波長領域を広げることに成功したことを報告するものである。

第6回 (6/27)
真鍋 佳典 (島川研、M2)

"High-density electron anions in a nanoporous single crystal:[Ca24Al28O64]4+(4e-)"
S. Matsuishi, et al., Science, 301, 626 (2003).

セメントは化学式12CaO・7Al2O3で表され、その単位格子内にAlとCaからなるケージを12個含むような構造をとることが知られています。本論文では、このケージ内に内包されている酸素イオンを電子と置換することにより、典型的な絶縁体のセメントが良導体となることが報告されています。また本物質のように電子を陰イオンとみなすことが出来る物質のことをエレクトライド(電子化物)と呼びますが、室温で安定なエレクトライドの合成に成功したという点で非常にインパクトの大きな論文であったようです。本論文内では、酸素と置換された電子の振る舞いについて述べられています。

畑 拓志 (小野研、D3)
"Negative refraction of dipole-exchange spin waves through a magnetic twin interface in restricted geometry"
S. -K. Kim, et al., Appl. Phys. Lett., 92, 212501 (2008).

光学では、屈折率が負となるメタマテリアルの研究が盛んに行われている。屈折率が負となると、屈折の際に光の経路が「くの字状」に折れ曲がるという現象が確認されている。一方、スピン波も波としての性質を持つことから、負の屈折率を持つ場合このような現象が起こることが予想される。本論文では、磁化容易軸の方向が異なる2つの領域の界面での屈折をシミュレーションにより調べ、負の屈折率に特有な現象がスピン波でも生じることを確かめている。

第7回 (7/4)
田中 健勝 (小野研、M2)

"High Q factor over 3000 due to out-of-plane precession in nano-contact spin-torque oscillator based on magnetic tunnel junctions"
H. Maehara, et al., Appl. Phys. Express 7, 023003 (2014).

直流から交流を作り出せる発振器は、電子機器の無線通信や演算に用いられており、エレクトロニクスの根幹を支える重要な電子デバイスである。しかし、水晶振動子などを用いた従来の発振器は、振動子がミリメートルサイズと大きく、周波数を高める回路が必要となるため小型化は困難であった。これに対してスピントルク発振子(STO)は、100 nm程度の素子でGHz帯の周波数を発振することが可能である。このため、次世代の無線通信用素子などへの応用が期待されている。しかし、これまでのSTOでのQ値は最高でも数百程度と、実用上必要とされる1000を下回っており、水晶振動子の数千や数万といった値に大きく劣っていた。本論文は、ソンブレロ型ナノコンタクトスピントルク発振子に面外方向の磁場を印加することで面外方向の歳差運動を誘起した。最適条件で面外の歳差運動を誘起することで基本ピークでの3200という非常に高いQ値と、45 GHzまでの高次のピークを実現した。3200というSTOにおいてこれまでになく高いQ値は、実用上必要とされる1000という値を大きく超えており、スピントルク発振子の実用化に向けた開発を加速させる成果である。

島川 祐一 (島川研、教授)
"How to Write & Publish a Scientific Paper"

科学的研究が終了した時、あるいは、一部を完了したとき、研究者は論文を書かかなければならない。論文を書くという仕事は、科学研究の一部であり、研究論文を書いて初めて、研究が完成するからである。研究論文は、例えていえば研究の顔のようなものであり、研究全体を代表するものである。研究論文を書くという仕事は、実験をしたり、解析をしたり、理論的考察をするのと同等に、大切な仕事の一部であることを忘れてはならない。

第8回 (7/11)
齊藤 高志 (島川研、助教)

"Inversion Symmetry Breaking by Oxygen Octahedral Rotations in the Ruddlesden-Popper NaRTiO4 Family."
H. Akamatsu, et al., Phys. Rev. Lett., 112, 187602 (2014).

圧電性や強誘電性の発現には反転対称性を持たない結晶構造が必要ですが、その実現は簡単ではありません。近年、反転対称性を持たないペロブスカイト関連構造を持つ酸化物の設計指針が理論的に考察され、そのような物質の探索が行われています。本論文では、Aサイト秩序を持つRuddlesden-Popper型酸化物NaRTiO4(R:希土類)についてX線結晶構造解析、第二次高調波測定、圧電応答顕微鏡観察、第一原理計算をおこない、この物質がこれまでの報告に反して反転対称性を持たない空間群P-421mに属することを報告しています。酸素八面体の回転様式の制御によるacentricな構造を初めて実際に見いだしたという点でインパクトのある論文だと思います。

柿堺 悠 (小野研、D1)
"Blending of animal colour patterns by hybridization"
S. Miyazawa, et al., Nature Communications, 1, 66 (2010).

動物の中には磁性体に現れる磁区のような模様を体に帯びているものがあります。生物学者はこれまで動物の模様の多様性に魅力を感じていました。しかし、その中でも特に脊椎動物に見られるような鮮やかで複雑な模様はどのように進化し、発展したのかがいまだ未解明のままでした。著者らはこういった複雑な模様は、単純な斑点模様を帯びた動物同士の交配によって生まれることを明らかにしました。反対の模様(黒地に白い斑点と白地に黒い斑点etc.)を持った動物同士の交配によって生まれる子供は必然的にその'中間'の複雑な迷路模様となることが数学的なモデルを用いた解析によって予想されます。著者らはサケ科の魚における天然および人工的な交配の実験的検証によってこの数学モデルが動物の模様にも広く適応できることを実証しました。

第9回 (7/18)
秋月 康秀 (島川研、研修員)

"Charge-cluster glass in an organic conductor"
F. Kagawa, et al., Nature Physics, 9, 419 (2013).

幾何学的なフラストレーションが働く磁性体では、スピングラスやスピンアイス、そして量子スピン液体状態など、古典的にも量子論的にも秩序化しない状態をとることが知られている。このような幾何学的フラストレーションは、電子(電荷)の秩序化においても同様な働きを見せる可能性があり、その結果、新奇な電子状態や電荷秩序が現れる可能性がある。本論文は、三角格子を持つ層状擬2次元有機伝導体θ-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)4において、急冷すると長距離電荷秩序が形成されず、電子がクラスターを形成してガラス状態になっていることを実験的に明らかにしたことを報告している。

谷口 卓也 (小野研、M2)
"Materials Selections and Growth Conditions for Large-Area, Multilayered, Visible Negative Index Metamaterials Formed by Nanotransfer Printing"
L. Gao, et al., Adv. Optical Mater., 2, 256 (2014).

通常自然界にある物質の屈折率は正の値をもつ。しかし、物質を特異な形に加工することで負の屈折率を実現することができ、そのように性質を人工的に変化させた物質のことをメタマテリアルと呼ぶ。物質が負の屈折率をもつと、波長限界を超えた分解能をもつ「完全レンズ」や光学迷彩といった現在では信じられないような技術の実現が可能となる。メタマテリアルの開発において多様な構造が試みられているが、本論文はこれまでのものに比べて広範囲にわたり、可視光領域の負の屈折率を実現したものである。

第10回 (10/3)
保坂 祥輝 (島川研、D1)

"Autonomous motors of a metal-organic framework powered by reorganization of self-assembled peptides at interfaces"
Y. Ikezoe, et al., Nature Materials, 11, 1081 (2012).

金属イオンと有機配位子によって作られるMOFは微細な細孔を有するため、ガス吸蔵材料や不均一触媒等として知られている。本論分ではMOF中に取り込んだ疎水性ペプチドを水上で放出し、固液界面に表面張力の差を生み出すことで推進力を生み出すことができると報告している。これはこれまでの分子モーターの性能を上回ると同時に吸着した分子を放出する際に結晶性の良いまま放出できるというMOFの新たな特性を表す結果となっている。

吉村 瑤子 (小野研、D2)
"Observation of a new particle in the search for the Standard Model Higgs boson with the ATLAS detector at the LHC"
ATLAS Collaboration, Phys. Lett. B, 716, 1 (2012).

素粒子は、それ以上分割できない、この世の最小の構成要素です。現在の素粒子物理学の基盤となっている理論は「標準モデル」と呼ばれています。今回紹介する論文が発表された2012年には、標準モデルに登場する数々の素粒子のうち、まだ実験的に発見されていないのは、ヒッグス粒子だけでした。そのため、ヒッグス粒子の発見は、素粒子の標準モデルを完成する最後のピースと言われていました。欧州合同原子核研究機構(CERN)は、大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider : LHC)のATLAS : A Toroidal LHC ApparatuS)と呼ばれる粒子測定装置を用いて、「ヒッグス粒子らしい新粒子」を観測しました。ヒッグス粒子は不安定なので、生成するとすぐに崩壊して、別種の素粒子が生成されます。二次的に発生するこれらの素粒子をATLAS装置で検出・分析した結果が、本論文で紹介されています。

第11回 (10/10)
Kab-Jin Kim (Ono lab., Assistant Professor)

"Room-temperature antiferromagnetic memory resistor"
X. Marti, et al., Nature Materials, 13, 367 (2014).

The discovery that is reported in this paper consists on using some antiferromagnetic materials that change from antiferromagnetic to ferromagnetic upon heating. To be able to select the magnetic moment direction of the antiferromagnet, it is first slightly heated up to bring the material into the ferromagnetic phase. A magnetic field pointing along a certain direction is applied and the materials is allowed to cool down back into the antiferromagnetic region, where the magnetic moment orientations get blocked along a direction determined by the cooling magnetic field. The information has been written and it will be insensitive to external magnetic fields. Furthermore, the antiferromagnet has zero net magnetization and thus, unlike ferromagnets, produce no stray stray magnetic field. Information is subsequently read by simply measuring the electric resistivity, which is known to depend on the relative angle formed by the measuring current and orientation of the magnetic moments.

佐藤 理子 (島川研、M2)
"Flexible, Angle-Independent, Structural Color Reflectors Inspired by Morpho Butterfly Wings"
K. Chung, et al., Adv. Mater., 24, 2357 (2012).

Biomimetic(生物模倣技術)という手法がある。生物の機能や性質、構造を工業製品などに応用しようとする技術で、技術革新のヒント・新たな成長分野として産業界で注目されている。いくつかあるBiomimetic材料研究の成功例のうち、モルフォ蝶の構造色について取り上げる。本論文では、Si基板上に誘電体マルチレイヤーを作製し、規則的な構造と不規則な構造を共存させることで、モルフォ蝶の翅のような輝く青色を再現できたとしている。

第12回 (10/17)
真鍋 佳典 (島川研、M2)

"Transparent, Conductive Carbon Nanotube FIlms"
Z. Wu, et al., Science, 305, 1273 (2004).

カーボンナノチューブは独特の幾何学構造のために非常に大きなヤング率を持ち、僅かな幾何学構造の違いにより金属の性質や半導体の性質を持つなど電子構造が著しく変化するために、これまで様々な分野でナノスケールの材料設計をする際に有望視されてきた材料です。特に単層カーボンナノチューブ(SWNT)によって作製された透明フィルムは、従来の酸化物を用いた透明フィルムに比べて、柔軟性が高く、さらに容易にフィルム中のキャリア密度の調整を行うことができます。

河口 真志 (小野研、D2)
"A VLBI resolution of the Pleiades distance controversy"
C. Melis, et al., Science, 345, 1029 (2014).

天文学において距離の測定は、星々の進化から宇宙誕生の謎に至るまで幅広い課題について重要な意味を持ちます。おうし座のプレアデス星団までの距離は、かつてヒッパルコス衛星によって精密に測定されました。しかし星の明るさに関する物理特性と、その測定距離から考えられるよりも見かけの明るさが暗く、議論の的となってきました。本論文ではプレアデス星団までの距離を超長基線電波干渉法(VLBI)を用いて精密に測定しました。雑誌会では天文学における距離測定にまつわる話を紹介しつつ、このVLBIに関連して、望遠鏡や顕微鏡の性能がどのように制限されるかについてお話ししようと思います。

第13回 (10/24)
黒崎 諒 (島川研、M2)

"Atomic structure and dynamic behaviour oftruly one-dimensional ionic chains insidecarbon nanotubes"
R. Senga, et al., Nature Materials, 13, 1050 (2014).

低次元材料はバルク材料では見られない特異な性質を見せることから基礎・応用のどちらの面からも注目されている。二次元構造材料は薄膜作製技術の向上により様々な材料の薄膜の作製が可能になり、電子顕微鏡など構造評価の技術の向上も相まって大きな発展を遂げてきた。一方、一次元構造材料の作製は非常に難しく、今までAuやAg、Cなどの限られた材料でしか作ることが出来なかった。またそれらは寿命も非常に短いものであり、一次元構造の作製技術の向上が求められてきた。本論文ではカーボンナノチューブにイオンを詰め込むことで単原子の幅を持つ安定なイオン結晶性の一次元鎖を作ることに初めて成功したことを紹介している。

山田 貴大 (小野研、D1)
"Repeated temperature modulation epitaxy for p-type doping and light-emitting diode based on ZnO"
A. Tsukazaki, et al., Nature Materials, 4, 42 (2005).

青色発光ダイオードの発明とその実用化に貢献したとして、2014年のノーベル賞に赤崎、天野、中村の日本人3名が選出された。彼らの貢献により、半導体素子で光の3原色すべてを表現することが可能になった。今では、ディスプレイや信号機等に広く応用され、その世界市場規模は1.4兆円にも及んでいる。青色発光ダイオードの高効率化や紫外領域発光を目指したGaNの研究は今なお続けられているが、GaNよりも安価かつ高効率な代替物質の開発も進んでいる。その候補のひとつがZnOである。本論文は、困難であったZnOのp型化に成功し、ZnOでも青色発光ダイオードを実現することができることを示した非常にインパクトの大きいものである。

第14回 (10/31)
市川 能也 (島川研、特定助教)

"Magnon transistor for all-magnon data processing"
A. V. Chumak, et al., Nature Communications, 5, 4700 (2014).

通常の半導体デバイスは電子の持つ自由度のうち特に電荷に注目してその運動(電流)を電流や電場で制御するものであるが、制御対象として電子のスピンやさらに電子以外の粒子・準粒子を対象にする研究も行われている。本論文はスピン系の集団励起(準粒子)である「magnon」を使い、magnonのmagnonによる制御に基づく全magnon三端子デバイスを作成・動作させたとする報告である。このデバイスでは電流を全く使わないため廃熱が生じない。デバイスサイズは10nm以下までスケールダウンできる可能性があり、また動作速度もTHzオーダーまで到達できる可能性がある。

神屋 道也 (小野研、M2)
"On-chip manipulation of single microparticles, cells, and organisms using surface acoustic waves"
X. Ding, et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 109, 11105 (2012).

粒子や細胞そして生命体などを巧みに操作(移動)する技術は、生物学、化学、工学や物理の分野において計り知れない価値を持ちます。著者たちはこの論文において、表面弾性波の定在波に基づいた「弾性ピンセット」により、マイクロ粒子や細胞さらには、1つの生命体(線虫の一種)を微小流体チップにおいて操作することが可能であることを示しました。この弾性ピンセットは移動を光学的に行う場合に比べとても小さなパワーしか必要としません。そのため生体にダメージを与えることなく操作できます。

第15回 (11/14)
谷口 卓也 (小野研、M2)

"Reversible control of spin-polarized supercurrents in ferromagnetic Josephson junctions"
N. Banerjee, et al., Nature Communications, 5, 4771 (2014).

電子の移動により電荷は輸送される。超伝導現象では、この電荷の輸送はクーパー対と呼ばれる2つの電子の組み合わせによって行われる。このクーパー対は2つの電子のもつスピンの組み合わせによってシングレットとトリプレットに大きく分類され、通常はシングレットが安定となる。しかし、超伝導体と強磁性体を組み合わせることによりトリプレットが観測されることが近年報告されており、興味を集めている。本論文はジョセフソン接合に3層の磁性層を用いることでそのトリプレットを制御した報告である。

第16回 (11/21)
水野 隼翔 (小野研、M1)

"Microscopic magnetic properties of an oxygen-doped Tb-Fe thin film by magnetic Compton scattering"
A. Agui, et al., J. of Appl. Phys., 114, 183904 (2013).

アモルファス構造を有する希土類−遷移金属(RE-TM)合金は成膜条件によって垂直磁気異方性(PMA)をもち、その特性から光磁気や熱アシストを用いた磁気記録媒体の材料として研究されている。本論分では、電子スピンに依存したコンプトン散乱(磁気コンプトン散乱)を用いることでTbFeO膜のスピン成分の磁化曲線を測定し、スピン成分と軌道成分の寄与を明らかにした。また、構成元素(Tb,Fe)別の寄与も見積もった。ミクロスコピックな観点から磁化過程を理解することで、より高性能な記録媒体材料の開発が期待される。

佐々木 貴大 (島川研、M1)
"Development of bulk-type all-solid-state lithium-sulfur battery using LiBH4 electrolyte"
A. Unemoto, et al., Appl., Phys. Lett., 105, 083901 (2014).

近年、携帯電話等の移動用端末の普及や高性能化、環境問題に適応した電気自動車の開発に伴い、高容量の二次電池の需要が高まってきている。無機固体電解質を用いた全固体電池は安全性の高い次世代電池として注目されている。本論文では、電解質にLiBH4を使用したバルク型全固体リチウムー硫黄電池を作製し、安定した動作、サイクル特性をもつことを報告している。

第17回 (11/28)
馬場 枝里奈 (島川研、M1)

"Low-temperature fabrication of high-performance metal oxide thin-film electronics via combustion processing"
M. -G. Kim, et al., Nature Materials, 10, 382 (2011).

近年液晶ディスプレイの大画面化と高精度化が進んでいる。それに伴い、薄膜トランジスタ(TFT)の低コスト化や高性能化が望まれている。本論文ではTFTの半導体層を燃焼合成反応で作製し、従来のプロセス温度より低い温度で高い移動度をもつTFTが作製できることを紹介している。また、低温合成が可能なことから、プラスチック基板のような柔軟な基板への応用も期待される。

東野 隆之 (小野研、M1)
"Flexible organic transistors and circuits with extreme bending stability"
T. Sekitani, et al., Nature Materials, 9, 1015 (2010).

近年エレクトロニクスデバイスの発展の方向性として、「フレキシブル」(柔軟さ)が注目されている。エレクトロニクスにおける柔軟さとは、形状の自由度が高い、曲げられる、壊れにくい、などの特徴を備えていることであり、また社会で求められる多様なニーズに順応できる可能性を持つことも含まれている。本論文では、大きく曲げることができる有機薄膜トランジスタの作製、また、その薄膜トランジスタと感圧性ゴムを組み合わせた回路を用い、圧力センサーとして応用する例を報告している。

第18回 (12/5)
郭 海川 (島川研、D1)

"The role of low-coordinate oxygen on Co3O4(110) in catalytic CO oxidation"
D. Jiang, et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 13, 978 (2011).

近年、様々な形状を持つCo3O4ナノ粒子が合成された。この中、優れた触媒性能を持つナノ粒子、たとえば、-77℃でCOを酸化できるCo3O4ナノロッドは注目を集めている。しかし、この反応のメカニズムは、まだ議論されている。本論文では、第一原理計算で、COと結晶面の反応ルートを解明し、さらに、O2と結晶面の反応を計算し、反応循環を明らかにした。

小野 輝男 (小野研、教授)
"Electrically Switchable Chiral Light-Emitting Transistor"
Y. J. Zhang, et al., Science, 344, 725 (2014).

円偏光には、3次元ディスプレイ、スピントロニクスデバイスのスピン源、量子コンピュータの情報キャリアなど幅広い利用の可能性があり、電気的に偏光制御可能な円偏光源が求められています。しかし、円偏光制御に良く用いられる偏光子と1/4波長板からなる偏光フィルターでは機械的に偏光子を動かすことが必用ですし、spin-LEDでは外部磁場が必用です。本論文では、電流駆動での円偏光エレクトロルミネッセンス、およびその電気的偏光制御が報告されています。

第19回 (12/11)
松崎 乃里子 (小野研、M1)

"Writing and reading of an arbitrary optical polarization state in an antiferromagnet"
T. Satoh, et al., Nature Photonics, Published Online (2014).

反強磁性体は磁場を加えなくても数テラヘルツの共鳴周波数を有するため、超高速に動作する素子としての可能性を秘めた物質です。また光を磁性体に照射したときに、磁化の向きなどの性質が変わる効果を光磁気効果と呼びます。本論文の研究では、3つの直交する独立な磁化振動モードを有する反強磁性体YMnO3に偏光ストークスパラメータS1,S2,S3の光パルスを照射し、それぞれX、Y、Zモードの磁化振動モードを誘起しました。これは光の3つの偏光自由度全てを独立に磁化振動モードという形で転写できたことを意味します。さらにその3つの磁化振動モードを別の光パルスを用いて独立に読み出せたことを報告しています。

田中 健勝 (小野研、M2)
"Mutual phase-locking of microwave spin torque nano-oscillators"
S. Kaka, et al., Nature, 437, 389 (2005).

スピントルク発振子(STO)は、スピントルク効果を利用することで直流電流からマイクロ波シグナルを発生させることができます。このため、スピントルク発振子は次世代の高周波発振素子として期待されています。しかし、1個のスピントルク発振子から放出されるマイクロ波電力は、現在のところ1 nW未満と非常に小さい値となっています。より実用的な(マイクロワット級の)電力レベルを実現するために、著者らは位相コヒーレントなスピントルク発振子アレイを構成することを試みました。本論文では、2個の極めて近くに配置したスピントルク発振子が相互に位相ロックする、つまり位相同期することを示しました。位相同期している状態では、シグナルの線幅が小さくなるだけでなく、発生する電力が増大するということに特徴があります。位相同期したスピントルク発振子アレイは、ナノメートルスケールの発振子として使うことが可能です。さらに、アレイ素子の位相を制御することで、無線通信用のナノメートルスケールの指向性送信機および受信機として用いることも可能になります。