2021 年度
第1回 (5/21)
Anucha Koedtruad (島川研、PD)
"A new halospinel superionic conductor for high-voltage all solid state lithium batteries"
Laidong Zhou. , et al., Energy Environ. Sci.,13, 2056 (2020)
　Various lithium metal halides have been explored for superionic conducting electrolytes in all solid state lithium batteries. This work reported the first spinel-type superionic conductor, Li2Sc2/3Cl4. Its detailed crystal structure, ionic conductivity and structure-conductivity relation were investigated. The excellent electrochemical performance with high voltage cathode materials was also illustrated.

池渕　徹也 (小野研、D3)
"Measurement of gravitational coupling between millimetre-sized masses"
Tobias Westphal , et al., Nature, 591,225-228 (2021)
　重力は４種の基本相互作用(強い力、電磁気力、弱い力、重力)のうち最も弱い力であることが知られているが、現代物理学において重要な未解決の問題を抱えている。例えば、重力は統一理論などのモデルには当てはめることができず、量子的な性質を記述することが今のところ不可能となっている。したがって、あらゆるスケールの重力を研究することは有意義であるが、実験では主にkgスケール以上の巨視的な質量に対して取り扱われていた。今回、半径約1mmの2つの金属球の間で生じる重力を対象として、100mg未満の重力源に対して実験を行った。片方の金属球をピエゾ素子により周期的に振動させ、もう一方の金属球の変位を周波数ドメインでマッピングを行った。そして重力ポテンシャルの非線形性の結果として、線形結合と二次結合の両方が観察された。この実験結果は、重力測定のパラメータ空間をより微小な系に対して適用できるようになったことを意味する。また、今回の結果をさらに改善すると、プランク質量より軽い物体に対しても重力を分離できるようになる。これは、微視的な質量に対する基本相互作用の新しい研究を可能にし、重力の量子的性質を調査するための手掛かりとなり得る。　

第2回 (5/28)
上野　智貴 (小野研、M2)
"Enhancement of Thermally Injected Spin Current through an Antiferromagnetic Insulator"
Weiwei Lin , et al., Phys. Rev. Lett. 116, 186601 (2016)
　本研究において、通常の金属(NM)/反強磁性体(AF)/イットリウム鉄ガーネット(YIG)において、熱注入されたスピン流が大きく増大することを報告する。このとき、NiOまたはCoOからなる薄いAF絶縁層が、YIGからNMへのスピン流を最大で10倍に増大させる。NM/AF/YIGにおけるスピン流の増大は、薄いAF層のネール温度付近で顕著な最大値を示し、NM=3d, 4d, 5dの金属について、NM/YIG界面のスピン混合コンダクタンスと線形にスケールすることがわかった。スピン流増幅とスピンミキシングコンダクタンスの計算結果は、実験結果と定性的に一致している。

第3回 (6/4)
鎌田　太郎 (島川研、M2)
"Hydrogen spillover through Matryoshka-type (ZIFs@)n-1ZIFs nanocubes"
Guowu Zhan , et al., Nature Communications, 9, 3778 (2018)
　水素が新たなエネルギー源として注目され、水素貯蔵の研究が盛んにおこなわれている。水素スピルオーバーは水素貯蔵性能に影響を関係し、Metal-organic frameworks(MOFs)を経由した水素スピルオーバーの振る舞いの解明は現在も様々な議論がなされている。
本研究で著者らはZeolitic imidazolate frameworks(ZIFs)をマトリョーシカ構造にした物質を合成しマトリョーシカ構造の外側から水素スピルオーバーを誘起し、内部に水素原子を侵入させることでZIFsの構造変化を引き起こした。その構造を解析することで水素スピルオーバーの移動距離を評価した。

洪　�ﾄ�a (小野研、D3)
"Ultralow contact resistance between semimetal and monolayer semiconductors"
Pin-Chun Shen , et al., Nature, 593, 211-217 (2021)
　The advanced beyond-silicon electronic technology for semiconductor industries requires both channel materials and also ultralow-resistance contacts to be discovered. Though automatically thin two-dimensional semiconductor has been proved to have great potential for realizing high performance electronic devices, the energy barrier at metal-semiconductor interface, owing to metal-induced gap states (MIGS), fundamentally leads to high contact resistance and poor current delivery capability for the devices. Here, the authors report the ohmic contact between semi-metallic bismuth and semiconductor-monolayer transition metal dichalcogenides (ML-TMD) where MIGS are sufficiently suppressed. This technology reveals the potential of high-performance monolayer transistors, enabling further device downscaling and extending Moore’s law.

第4回 (6/11)
飯星　眞 (島川研、M2)
"Structure and phase transitions in A-site ordered RBaMn2O6 (R = Pr, Nd) perovskites with a polar ground state"
J. Blasco , et al., Phys. Rev. B 103, 064105 (2021)
　シンクロトロンX線粉末回折法とラマン分光法によるRBaMn2O6(R = La, Pr, and Nd) の構造に関する研究を報告する。この３つの化合物は、Aサイト層状秩序のペロブスカイトであり、高温では典型的な正方晶の構造を有する。LaBaMn2O6では強磁性転移が観測され、その転移温度TCでは磁気モーメントの方向に関連した異方的な格子定数変化が起こる。PrBaMn2O6とNdBaMn2O6は両方とも電子の局在化と反強磁性転移を伴う構造相転移を起こし、X線回折から低温相では元の正方晶のa+b, b?a, cを格子定数とする斜方晶となることが明らかとなった。このX線回折パターンの正確なフィッティングにはPmamとP21amの２つの空間群があり得るが、ラマン分光の結果によると低温相の活性モードは中心対称性をもたない空間群P21amであることをはっきりと示す。この相転移の対称性の解析から、第一のモードは既約表現M5-とGM5-に属し、主な歪みは、MnO6八面体の回転と、八面体の底に位置する酸素の伸縮モードと変角モードの非対称な組み合わせに対応することが明らかとなった。そこで我々は、低温相は、主に中心対称の位置にあった酸素原子の変位により極性であると結論付けた。しかし、この構造相転移ではJahn-Tellar歪みに基づく非対称伸縮による部分も無視できず、これは斜方晶のab面内でのeg (3dx2-y2)軌道のフェロイックな軌道秩序の欠如を示唆している。極性をもつ低温相ではMn原子の非等価なサイトは1つしか無いので、電荷秩序により構造の原点をもつ電子の局在化を説明することは出来ない。

成田　秀樹 (小野研、助教)
"Clean 2D superconductivity in a bulk van der Waals superlattice"
A. Devarakonda , et al., Science, 370, 6513, 231-236 (2021)
　2次元遷移金属ダイカルコゲナイドMX2 (Mは遷移金属、Xはカルコゲン原子(周期表の16族元素)）は、強いスピン軌道相互作用と結晶構造に由来するエキゾチックな量子相の存在が指摘されており、注目を集めている。しかし、劈開、剥離したMX2は劣化が早いという問題があり、物性解明の妨げとなっていた。
これまで一部の有機材料を除いて、クリーンな2次元超伝導体はほとんど存在しなかったが、この論文では、高品質のH-NbS2単層膜とBa3NbS5ブロック層を用いて、遷移金属二硫化物(TMD)層が強く分離された単結晶材料Ba6Nb11S28を合成し、バルク超格子構造を利用することで、クリーンリミットの無機2次元超伝導を実現したことを報告している。

第5回 (6/18)
小見山　遥 (小野研、M2)
"Cavity Optomagnonics with Spin-Orbit Coupled Photons"
A. Osada , et al., Phys. Rev. Lett. 116, 223601 (2016)
　光の量子であるphotonとスピン波の量子であるmagnonの結合に注目する cavity optomagnonicsは量子インターフェイスへの応用などで関心を集めている。この論文はcavity optomagnonics を実験的に実証した論文である。YIG球を用いて、Kittelモードと光の囁き回廊モード間でのマグノン誘起ブリルアン散乱を観測しており、その結果顕著な非対称性が見られた。これはphotonのスピン軌道結合や幾何学的複屈折と、magnonの時間的な反転対称性の破れによる角運動量の選択則によって説明できると報告している。

第6回 (7/2)
謝 玲玲 (島川研、研究生)
"polypeptide organic radical batteries"
Tan P. Nguyen , et al., Nature, 593, 61-66 (2021)
　Lithium-ion batteries have revolutionized technologies and life-style while caused an amount of problems. The big problem with Li-ion batteries right now is they are not recycled to the degree and the rate of recycling is in single digits, for which leads to ethical and environmental challenges of mining lithium, cobalt and other mineral ore resources. In this work develops a metal-free, all-polypeptide organic radical battery that degrades on-demand and the degradation products are recyclable and non-toxic. This work has made a breakthrough that could lead to battery production moving away from cobalt.

河原崎　諒 (小野研、M2)
"Electric field control of superconductivity at the LaAlO3/KTaO3(111) interface"
Zheng Chen , et al., Science, 372, 6543, 721-724 (2021)
　LaAlO3とKTaO3(111)の酸化物界面には超伝導状態が存在する。KTaO3にゲート電圧（VG）を印加することで、界面を超伝導状態から絶縁状態へと連続的に変化させることができ、Tcを転移温度とするとドーム型のTc-VG依存性が得られる。ゲート電場は、キャリア密度にはほとんど影響を与えないが、移動度には強い影響を与える。この移動度の調整は、界面におけるキャリアの空間分布の変化、すなわちディスオーダーに起因すると解釈される。温度を下げると、超伝導側と絶縁体側の両方で抵抗が最低温度で飽和することから量子金属状態の出現が示唆される。　

第7回 (7/9)
小杉 佳久 (島川研、D2)
"Devil's staircase transition of the electronic structures in CeSb"
Kenta Kuroda , et al., Nature Communications, 11, 2888 (2020)
　数多くある磁性体の中で、CeSbは最も複雑な磁性を示す物質の１つとして知られている。通常の磁性体とは大きく異なり、わずか10 Kの狭い温度範囲でスピンの長周期配列を7回も移り変える逐次的な相転移を示す。この現象は、その複雑怪奇さから「悪魔の階段」として呼ばれ1977 年の発見から 40 年以上たった現在でも、そのメカニズムは謎のままであった。本研究では、「悪魔の階段」で変化するスピン配列と伝導電子を超高分解能レーザー光電子分光で測定することで、「悪魔の階段」のメカニズムを調べた。その結果、本来自由に動き回るはずの伝導電子が、局在スピンとの強い相互作用を受け入れて束縛状態に陥ることと引き換えに、擬ギャップ状態を形成してエネルギー利得を得ることが「悪魔の階段」を引き起こす要因となっていることを突き止めた。

小林　裕太 (小野研、D1)
"Giant Orbital Hall Effect in Transition Metals: Origin of Large Spin and Anomalous Hall Effects"
H. Kontani , et al., Phys. Rev. Lett. 102, 016601 (2009)
　異常ホール効果やスピンホール効果に代表される内因性ホール効果の機構はアハラノフボーム位相(あるいはベリー位相)により説明される。本論文では、4d遷移金属の軌道間遷移に伴うアハラノフボーム位相からスピンホール効果を計算している。更に軌道角運動量のホール効果である軌道ホール効果を同様に計算し、軌道ホール効果が内因性ホール効果の本質であると主張している。　

第8回 (7/16)
菅 大介 (島川研、准教授)
"Stacking-engineered ferroelectricity in bilayer boron nitride"
Kenji Yasuda , et al., Science, 372, 6549, 1458-1462 (2021)
"Interfacial ferroelectricity by van der Waals sliding"
M. Vizner Stern , et al., Science, 372, 6549, 1462-1466 (2021)
　グラフェンやホウ化窒素(BN)のような層状結晶は、そのファンデルワールス結合ゆえに、容易に剥離可能で、さらに剥離した結晶はその結晶軸の方向を調整しながら任意の場所に転写できます。今回紹介する論文では、剥離したBN結晶をBN表面上へ再転写することで、バルク結晶とは異なる原子配列を持つ界面が実現でき、さらにその特異な界面はバルク結晶では発現しない強誘電分極を有することを報告しています。

船田　晋作 (小野研、D2)
"Coexistence of Bloch and Neel walls in a collinear antiferromagnet"
M. S. Wornle , et al., Phys. Rev. B 103, 094426 (2021)
　反強磁性体の磁壁の内部構造は磁壁の電流駆動のような反強磁性体の物性に大きな影響を与えています。しかしながら反強磁性体の磁壁の内部構造を測定するためには高い磁場感度と空間分解能が必要であり、一般的には困難でした。
本論文では反強磁性体Cr2O3のバルク試料において、磁壁の内部構造をNV中心を使った磁気センサによって観察し、面内磁気異方性が強い試料ではネール磁壁とブロッホ磁壁が共存していることを示しました。

第9回 (9/6)
蓬莱 慎司 (島川研、M1)
"Heterogeneous integration of single-crystalline rutile nanomembranes with steep phase transition on silicon substrates"
Dong Kyu Lee , et al., Nature Communications, 12, 5019 (2021)
　VO2は室温付近で金属-絶縁体転移をすることから長年研究がなされてきた。応用研究の一つとしてSi基板上にVO2薄膜を作製する試みがある。本論文ではTiO2 / VO2 / TiO2を作製し、H2O2でVO2を溶かすことで自立させたTiO2をSi上に転写し、その上にVO2層を作製した。Si基板上に初めて10 nmという薄さながら鋭い金属-絶縁体転移するVO2膜の作製に成功した。

牧野　百 (島川研、M1)
"Two superconductor-insulator phase transitions in the spinel oxide Li1±xTi2O4-δ induced by ionic liquid gating"
Zhongxu Wei , et al., Phys. Rev. B 103, L140501 (2021)
　絶縁体である酸化物が超伝導体の振舞をするにはキャリア密度が重要であり、化学ドープで調整できる。本研究では、スピネル型酸化物Li1±xTi2O4-δについて、イオン液体ゲーティングによるドーピングにより、2つの超伝導-絶縁体相転移が、高い電子そしてホールのドーピングレベルで見られる相図が得られたことを調べた。また、実験結果と理論計算を組み合わせることで、ホールドーピング時の振舞は価電子の減少、電子ドーピング時の振舞は電子相関と軌道秩序に、起因すると主張する。

渡邊　澪 (島川研、M1)
"Low-Temperature Oxygen Storage of CrIV-CrV Mixed-Valence YCr1-xPxO4-δ Driven by Local Condensation around Oxygen-Deficient Orthochromite"
Yoshitaka Aoki , et al., J. Am. Chem. Soc., 139, 11197-11206 (2017)
　昨今のエネルギー、環境問題の解決ために、酸素貯蔵材料が注目を集めている。酸素貯蔵材料は温度や雰囲気によって可逆的な酸素の吸脱着が可能な材料であり、高効率、大容量化が求められている。本研究では高原子価金属酸化物であるYCr1-xPxO4の酸素吸収/放出挙動とこれに伴う酸素欠陥構造を、熱重量測定とoperando X線分光法、第一原理計算によって調査し、低温での酸素吸収/放出が進行したことを報告した。YCr1-xPxO4は50 ℃からCr(V)がCr(IV)に還元され酸素を放出し始め、また、還元されたYCr1-xPxO4-δを50 ℃まで冷却すると、酸素を吸収し元の状態に戻った。還元されたYCr1-xPxO4-δは、酸素が欠損したCr(IV)O32-四面体と隣接するCr(IV)O44-四面体との頂点共有によりCr(IV)2O76-を形成することで安定化することが明らかになった。YCr1-xPxO4の還元エンタルピーは約20 kJ/molと低く、このために低温領域で可逆的に酸素を貯蔵することができる。

第10回 (10/8)
小野　輝男 (小野研、教授)
"Ultrafast Frequency-Shift Dynamics at Temporal Boundary Induced by Structural-Dispersion Switching of Waveguides"
Fumiaki Miyamaru , et al., Phys. Rev. Lett. 127, 053902 (2021)
"Time Refraction of Spin Waves"
K. Schultheiss , et al., Phys. Rev. Lett. 126, 137201 (2021)
　時間結晶など時間軸に関する研究が盛んになっていますが、今回は時間軸に対する屈折現象についての論文を紹介したいと思います。媒質の誘電率や透磁率（つまり屈折率）がある瞬間に突然変わった場合の電磁波応答を時間軸に対する屈折と理解するようです。今回は、テラヘルツ帯の光を使った実験とスピン波 を使った実験を紹介します。

磯田 洋介 (島川研、M2)
"Electric-field-induced superconductivity in electrochemically etched ultrathin FeSe films on SrTiO 3 and MgO"
J. Shiogai , et al., Nature Physics, 12, 42-46 (2016)
　SrTiO3基板上のFeSe極薄膜は比較的高い超伝導転移温度を示す物質として注目されている。ここでは、従来のような分子線エピタキシー法でボトムアップ的に作成された薄膜ではなく、電気二重層トランジスタ型デバイスでのトップダウン的な電気化学エッチングおよび電界効果を用いて、FeSe極薄膜の超伝導特性について調べた。その結果、SrTiO3基板上に加えてMgO基板上でも40K付近で超伝導を示すことがわかった。また、電界の印加によって高い温度での超伝導を示す臨界厚さが10ユニットセルまで拡大し、超伝導転移が静電的に制御されることが明らかになった。

第11回 (10/15)
上野 智貴 (小野研、M2)
"Effect of Doped Buffer in Low-Temperature-Grown GaAs Terahertz Photoconductive Antenna Emitters and Detectors"
Elizabeth Ann Prieto , et al., IEEE, 20548441 (2020)
　ドープしたバッファーを層構造にもつ低温成長GaAs (LT-GaAs)は、テラヘルツ(THz)光伝導アンテナとして、より高いTHzエミッター特性を示したことを報告している論文です。THzエミッターとして、270℃で成長させたLT-GaAsにバッファーをドープしたものは、バッファーをドープしていないものと比較して2倍の振幅をもつTHz波を発生させています。THzディテクターとしては成長温度に関わらず、バッファーをドープしたLT-GaAsはどちらも同じ検出感度を示しました。これはドープしたバッファーがTHz放射強度に有利であることを示しています。

飯星　眞 (島川研、M2)
"High-efficiency magnetic refrigeration using holmium"
Noriki Terada , et al., Nature Communications, 12, 1212 (2021)
　磁場を用いて物質を冷やす手法である磁気冷却は、近年特に水素の液化を目的として20K付近での研究が盛んに行われている。しかし、そのほとんどが5Tなどの大きな磁場を要するもので、超伝導磁石を使わなければならず、エネルギーコストが高くなってしまう。本研究では、低温でのホルミウムの磁気転移が小さい磁場変化で起こせることから、その冷却効率を調べ、典型的な磁気冷却材料よりも高い冷却効率をもつことを明らかにした。さらに、必要な磁場の大きさは永久磁石でも実現可能な大きさであり、ホルミウムの磁気冷却が水素の液化のための圧縮冷却に代替し得る手法であることを示した。

第12回 (10/22)
鎌田 太郎 (島川研、M2)
"Refining active sites and hydrogen spillover for boosting visible-light-driven ammonia synthesis at room temperature"
Rong Fu , et al., J. Mater. Chem. A, 9, 22827-22832 (2021)
　アンモニアは肥料としての用途や次世代の燃料として注目されている。アンモニア合成法として有名なハーバーボッシュ法は大量のアンモニア合成を可能にしているが、高温高圧の条件が必要であり、エネルギーを大量に消費することが環境問題として指摘されている。それ故、より温和な条件でアンモニアを合成する方法が模索されている。 本論文で筆者らは、MoとPtを導入したTiO2-xを用いて、可視光照射下でN2とH2ガスからアンモニアが室温で合成可能であることを示した。ドープされたMoがN2に電子供与的な活性化サイトを提供すると同時に、Pt触媒によって誘起される水素スピルオーバーがアンモニアの組み立てと脱離を促進していることで合成効率を向上させていることを示した。

河原崎　諒 (小野研、M2)
"Pauli-limit violation and re-entrant superconductivity in moire graphene"
Yuan Cao , et al., Nature, 595, 526-531 (2021)
　モアレ量子物質は、相関相やトポロジカル相を前例のない制御方法で探索できる材料プラットフォームとして登場した。その中でも、2層または3層のグラフェンで構成されたマジックアングル系は、従来とは異なる特性を持つ強固な超伝導相を示している。しかし、型破りなペアリングの直接的な証拠は、まだ実験的に示されていない。ここでは、マジックアングルでねじれた三層グラフェンが、10Tを超える面内磁場まで超伝導を示すことを示します。これは、従来のスピンシングレット超伝導体のパウリ限界の2〜3倍に相当する。このパウリ限界を上回る臨界磁場は、超伝導相全体に渡って観測されており、大きな超伝導振幅ペアを持つ可能性のある擬ギャップ相とは無関係であることがわかった。注目すべきは、大磁場でのリエントラント超伝導であり、これはキャリア密度と変位磁場の狭い範囲で存在する。これらの結果は、マジックアングルでねじれた三層グラフェンの超伝導はスピン・シングレットのクーパー対が生じるメカニズムとは異なっている可能性が高く、外部磁場によって、潜在的に異なる秩序パラメータをもつ相間の転移が生じることを示唆している。今回の結果は、モアレ超伝導の豊かさを示すものであり、次世代のエキゾチックな量子物質の設計につながる可能性がある。

第13回 (10/29)
島川 祐一 (島川研、教授)
"News & views “Unravelling the enigma of bird magnetoreception”"
Eric J. Warrant , Nature, 594, 497-498 (2021)
"Article “Magnetic sensitivity of cryptochrome 4 from a migratory songbird”"
Jingjing Xu , et al., Nature 594, 535-540 (2021)
　私は学生の頃に、「渡り鳥などが毎年きちんと同じ場所へ戻って来るのは、体内にFe3O4（マグネタイト）があり、これが地磁気を検出して飛ぶ方向を決められるからだ」と教わったように記憶していました。しかしながら、動物の回遊、渡り、帰巣というのは、実は未解明のことが多々あるようです。最近主流となっている説では、渡り鳥などの「磁気受容」には特殊なタンパク質が関与しているというもののようです。今年になってNature誌に、ヨーロッパコマドリという渡り鳥の網膜にクリプトクロームと呼ばれる磁気に感応するタンパク質があり、このタンパク質が、地球の極めて弱い磁場を検出するのに必要な磁気感度を備えていることを実験的に確認したことが報告されています。

小見山　遥 (小野研、M2)
"Quantum ground state and single-phonon control of a mechanical resonator"
A. D. O’Connell , et al., Nature, 464, 697-703 (2010)
　単一フォノンの量子制御を初めて実証し、これ以降超伝導とオプトメカニカルシステムのハイブリッド系により注目が集まるきっかけになった論文です。 従来、メカニカルシステムを量子化するときの系は共振周波数が数百MHｚの系であったため、冷却の際は標準的な希釈型冷凍機だけでは達成できなかった。この論文では共振周波数が数GHｚのメカニカルキャビティをつくることにより従来の希釈型冷凍機だけで基底状態をつくることができるようになった。このメカニカルキャビティと超伝導量子ビットを結合することでフォノンと量子ビットの変換が可能であることを示した。

第14回 (11/5)
Midori Estefani Amano Patino (島川研、特定助教)
"Hybrid electrons in the trimerized GaV4O8"
Cintli Aguilar-Maldonado , et al., Mater. Horiz, 8 2325-2329 (2021)
　Mixed-valent transition-metal compounds display complex structural, electronic and magnetic properties, which often intricately coexist. Here, we report the new ternary oxide GaV4O8, a structural sibling of skyrmion-hosting lacunar spinels. GaV4O8 contains a vanadium trimer and an original spin-orbital-charge texture that forms upon the structural phase transition at TS = 68 K followed by the magnetic transition at TN = 35 K. The texture arises from the coexistence of orbital molecules on the vanadium trimers and localized electrons on the remaining vanadium atoms. Such hybrid electrons create opportunities for novel types of spin, charge, and orbital order in mixed-valent transition-metal compounds.

久富 隆佑 (小野研、助教)
"An effective magnetic field from optically driven phonons"
T. F. Nova , et al., Nature Physics, 13, 132-136 (2017)
　固体中の電子と格子振動間の相互作用は、固体物理学における中心的話題の一つです。本論文では、電子スピンと格子の回転運動間の相互作用に焦点が当てられています。具体的には、制御された2発のレーザーパルスを反強磁性結晶に打ち込むことにより格子の回転運動を誘起し、それにより反強磁性マグノンが励起されている様子をポンププローブ測定を用いて観測しています。

第15回 (11/12)
塩田　陽一 (小野研、助教)
"Electrical generation and detection of spin waves in a quantum Hall ferromagnet"
Di S. Wei , et al., Science, 362, 6411, 229-233 (2018)
　二次元物質、特にグラフェンを用いた研究の進展は近年目覚ましいものがあり、次々と新しい現象が報告されています。今回紹介する論文では、単層グラフェンの量子ホール強磁性と呼ばれる状態において、スピン波の励起・検出を電気的な局所測定および非局所測定から実証しています。さらにゲート電圧で状態を制御することで、キャント反強磁性と呼ばれる状態においてもスピン波伝搬が観測されることを報告しています。このことから、グラフェンを用いたスピン超流動の実現が期待されます。

後藤 真人 (島川研、助教)
"Magnetoconduction in the Correlated Semiconductor FeSi in Ultrastrong Magnetic Fields up to a Semiconductor-to-Metal Transition"
D. Nakamura , et al., Phys. Rev. Lett. 127, 156601 (2021)
　磁場は精密制御が可能な物理環境の一つであり，電子の軌道とスピンに直接働きかけることができるため、磁性体、半導体などの固体電子物性研究には欠かせない重要なものである。本論文の研究対象であるFeSiは強相関半導体の一つであり、特徴的な磁気・伝導・光学特性が注目を集める一方で、その電子構造の詳細は良く分かっていなかった。そこで著者らは、電磁濃縮法を用いて500 Tまでの超強磁場中でFeSiの電気伝導特性を調べた。その結果、270 Tにおいて半導体から金属へ相転移することが判明した。さらに、金属転移磁場よりも低い磁場領域で特異な磁気抵抗が観測され、半導体のバンドギャップ中に局在的な電子状態が存在することが示唆された。

第16回 (11/19)
森山　貴広 (小野研、准教授)
"Scalable energy-efficient magnetoelectric spin-orbit logic"
Sasikanth Manipatruni , et al., Nature, 565, 35-42 (2019)
　1980年代以降、エレクトロニクスは半導体テクノロジー（CMOSテクノロジー）によって隆盛を誇ってきました。この間、CMOSの基本的な動作原理は全く変化しておらず、スケール則に従うデバイスの微細化がエレクトロニクスの高性能化の原動力になってきました。ムーアの法則の限界など、半導体テクノロジーの限界が叫ばれて久しいですが、いよいよデバイス動作の物理的限界が見えつつあり、最近ではBeyond CMOSについて真剣に考えられ、研究開発に多くの投資がされています。本研究では、Beyond CMOSとして、スケーラブルなスピントロニクスロジックデバイスを提案し、ベンチマークを行っています。

第17回 (11/26)
蓬莱慎司 (島川研、M1)
"Imaging two-dimensional generalized Wigner crystals"
Hongyuan Li , et al., Nature, 597, 650-654 (2021)
　The Wigner crystal has fascinated condensed matter physicists for nearly 90 years. Signatures of two-dimensional (2D) Wigner crystals were first observed in 2D electron gases under high magnetic field, and recently reported in transition metal dichalcogenide moire superlattices. Direct observation of the 2D Wigner crystal lattice in real space, however, has remained an outstanding challenge. Conventional scanning tunnelling microscopy (STM) has sufficient spatial resolution but induces perturbations that can potentially alter this fragile state. Here we demonstrate real-space imaging of 2D Wigner crystals in WSe2/WS2 moire heterostructures using a specially designed non-invasive STM spectroscopy technique. This employs a graphene sensing layer held close to the WSe2/WS2 moire superlattice. Local STM tunnel current into the graphene layer is modulated by the underlying Wigner crystal electron lattice in the WSe2/WS2 heterostructure. Different Wigner crystal lattice configurations at fractional electron fillings of　n = 1/3, 1/2 and 2/3, where n is the electron number per site, are directly visualized. The n = 1/3 and n = 2/3 Wigner crystals exhibit triangular and honeycomb lattices, respectively, to minimize nearest-neighbour occupations. The n = 1/2 state spontaneously breaks the original C3 symmetry and forms a stripe phase. Our study lays a solid foundation for understanding Wigner crystal states in WSe2/WS2 moire heterostructures and provides an approach that is generally applicable for imaging novel correlated electron lattices in other systems.

桑野　恭輔 (小野研、M1)
"Electric field control of magnon spin currents in an antiferromagnetic insulator"
Changjiang Liu , et al., Science Advances, 7, 1669 (2021)
　スピン流の中でもスピン波スピン流(純スピン流、マグノンスピン流)は、ジュール熱が発生しないのでエネルギー効率の良い情報処理に用いることができると考えられている。 この論文では、反強磁性絶縁体である Cr2O3を用いて、マグノンスピン流を電場によって制御できることが示されている。Cr2O3薄膜において、熱で駆動されたマグノンスピン流が高外部磁場でスピンフロップ遷移を示すことがわかった。また、このスピンフロップは、膜の厚さ方向に電場をかけることで on/off を切り替えることができると述べられている。この現象を利用して、マグノンスピン流のスピンの向きを、磁場は固定したままゲート電圧のみによって変化させることができることを実証した。

第18回 (12/3)
牧野　百 (島川研、M1)
"The Theoretical Investigation of Electronic, Magnetic, and Thermoelectric Behavior of LiZ2O4 (Z=Mn, Fe, Co, and Ni) by Modified Becke and Johnson Approach"
Q. Mahmood , et al., J. Supercond. Nov. Magn., 32, 1231-1239 (2019)
　磁性スピネル酸化物LiZ2O4 (Z = Mn, Fe, Co, Ni)は磁気および熱電的に興味深いとされ、近年よく研究されている．本論文では、LiZ2O4の電子、磁気、熱電特性を、Wien2kを用いて密度汎関数で解明した。最初に、バンド構造と全状態密度から、LiZ2O4がハーフメタリック的強磁性であることを確認した。次に、磁性については結晶場、ヤーン・テラー、交換相互作用、スピン密度を用いて議論した。最後に、電気伝導度、熱伝導度、力積、ゼーベック係数、熱効率を、ボルツマン方程式に従って輸送係数を求めるプログラムを用いて計算し、LiZ2O4が熱電材料に適していることを支持するような結論を得た。

杉浦　達 (小野研、M1)
"Chiral-induced spin selectivity enables a room-temperature spin light-emitting diode"
Young-Hoon Kim , et al., Science, 371, 6534, 1129-1133 (2021)
　スピン偏極した電子（ホール）を再結合させることで円偏光を発生させるLED素子はspin-LEDと呼ばれ、生体組織の観察や暗号通信への応用が期待されている。本論文ではspin-LEDのpn接合にキラリティを有する有機・無機ハイブリッドペロブスカイトを用いることで、室温において±2.6%の円偏光度を達成した。

第19回 (12/17)
磯田 洋介 (島川研、M2)
"Suppression of Metal-Insulator Transition in VO2 by Electric Field-Induced Oxygen Vacancy Formation"
Jaewoo Jeong , et al., Science, 339, 6126, 1402-1405 (2013)
　イオン液体を用いた電解質ゲーティングは，強相関絶縁体に対して新しい導電相を有機するための強力なツールである。二酸化バナジウムVO2はこの代表例であり，相転移温度（バルクで340K付近）以下で高温相の金属から低温相の絶縁体になる。本研究では，VO2エピタキシャル薄膜に電解ゲーティングを行うことで，イオン液体を完全に取り除いたあとでも5Kまで低温相の絶縁体への転移が抑制されることを明らかにした。これはゲート電界印加による単純な静電キャリア誘起ではなく，電界によって酸素空孔が生じることによるものであり，従来行われてきたイオン液体のゲーティング実験の解釈には注意を要することを示す。

渡邊　澪 (島川研、M1)
"Superstructure control of first-cycle voltage hysteresis in oxygen-redox cathodes"
Robert A. House , et al., Nature, 577, 502-508 (2020)
　アニオンレドックス系電池は、遷移金属だけでなくアニオンも酸化還元活性となるため、高容量電池として注目されています。一方でアニオンレドックスには電圧ヒステリシスという欠点がありますが、その根本的な原因は明らかになっていません。本論文では、組成はよく似ていますが構造が異なる二つの正極材料Na0.75[Li0.25Mn0.75]O2とNa0.6[Li0.2Mn0.8]O2に着目し、そのヒステリシス挙動の差を説明しています。Na0.6[Li0.2Mn0.8]O2では遷移金属層のLiがより分散しているため、充電しても層構造が変化せずヒステリシスを抑制していると述べられています。