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メッセージ(Message)

有機化合物の分子配列には0次元から3次元まであります.反応式に出てくる分子は0次元のイメージに近く,一方,実際に扱う材料は固体や溶液で3次元のイメージですが,結晶を除くと分子の並び方や溶媒和,分子間の相互作用はあまり明確ではなく,材料としての設計の障害になります.そう,材料の「機能を発現させる」のに,こうした並び方は本質的に重要です.こうした視点で,低次元物質は非常に注目されています.ほぼ0次元として扱える微粒子や,比表面積を稼げるナノワイヤは1次元の代表です.

一方,2次元分子配列は,固体や液体の「表面」や「薄膜」として現れます.この2次元分子集合体は,その中で分子の配列を制御できると,物性を目覚ましく変化させることができ,かつ大規模な面積に機能付与ができます.

「機能性界面解析」分科は:

  1. 分子を2次元集合系の中で自在に並べる方法
  2. 2次元的に並べた分子の配列を的確に官能基単位で明らかにする手法

の開発を軸とした「材料機能の研究」で世界の最先端を走っています.

とくに,2)ではこれまで誰も実現できなかった「非晶(アモルファス)」の構造を明らかにできる多角入射分解分光法(Multiple-angle Incidence Resolution Spectrometry; MAIRS)の開発に成功し,結晶多形解析から非晶解析までフルカバーできる世界で唯一の研究室です.有機半導体をはじめとし,医療科学,宇宙化学など,想像を超える勢いで波及が拡大中です.

また,2次元分子集合がカギとなる有機フッ素化合物の物性発現機構の解明に世界で初めて成功し,70年以上も謎と言われた有機フッ素の科学に初めて風穴を開けました.これは階層双極子アレー(Stratified Dipole-Arrays; SDA)理論と呼ばれ,これを元に世界的な環境問題の中心となりつつあるパーフルオロアルキル物質(PFAS)について考える科学的基盤が,ようやくできつつあります.いずれは炭化水素の科学と結びついたフッ素の科学を完成させると同時に,分子毒性学など新しい科学分野の創生に注力していきます.

この日本発で世界的にも新しい動きを是非確かめに,研究室に訪れてみてください.見学のご連絡をお待ちします.

長谷川 健

最先端デバイスの開発は,地図の無い未開の地での宝探しであってはならない

現代の化学は,固体の“表面”の分子構造や反応性が機能発現のカギを握っている場合が 非常に多いです.たとえば,ガラスの表面に撥水性を持たせるのに,フッ化物のポリマーコーティングがよく使われます.しかし,なぜフッ化物は撥水性を示すのでしょうか?フッ素は全元素中で最大の電気陰性度を持つため,C—F結合には大きな電気双極子があり,局所的にはむしろ強い親水性があるべきです.こうした,化学の基礎と実際の機能との間には 未解決の問題がたくさんありますが,今でも未解決のまま応用研究にひた走る傾向があります.これは,いわば地図の無い未開の地で宝探しをしているようなものです.我々の研究室では,こうした見過ごされがちで,かつ化学にとって見逃すことのできない問題の解決に当たる楽しみを見出しています.

未解決問題の中には,本当に解明が難しいものもありますが,多くの場合は“わからないことが当たり前”になってしまっているだけで,手つかずの課題が多いのです. ここに,新しい視点を向けるだけで,未開の土地に明確な道筋をつけることができます. 若いこれからの研究者と一緒に,こうした未解決問題に持てる感受性と創造力を思い切りぶつけて, 新しい化学の地平を開いて行きたいのです.

とことん理解できる喜びの共有

薄膜の構造解析に解析に用いる物理化学的な手法は,ともすれば難しいという印象しかないかもしれません.当研究室では,物理を分子の世界の言葉で語り,すでにわかっていると思っていることでさえ,認識を一変させるような驚きをたくさん経験できます.卒業するころには,絶対の自信をもって専門的な世界に羽ばたけます.

学びへのご期待に添えると自信を持っている内容:

  1. 薄膜の振動分光学:分子集合系の構造を解析するのに赤外分光法が圧倒的に優れていることを,基礎の理解と実践の理解からとことん納得.
  2. pMAIRS:研究室オリジナルの分光解析手法であるpMAIRSは,大きな上昇気流に乗り始めたところ.やればやるだけ新しい成果が出て学会をとことん楽しむ.
  3. 薄膜の結晶学:粉末の結晶学と一味も二味も違う,薄膜の世界.pMAIRSと組み合わせれば世界最高の情報量で手に取るように薄膜構造が分かります.放射光施設に行かなくても研究室で最高のデータに触れられる喜びをとことん実感.
  4. 世界最先端の有機フッ素材料の物性制御:経験重視だったフッ素化学を,自在な物性制御にシフトさせる面白さ.
  5. 未踏の化学領域:最安定化構造では語れない糖鎖の世界に振動分光で切り込む!
  6. 心から納得できる学び:分子振動の物理,電磁気学による薄膜分光学,有機物や非晶のフォノン・ポラリトン,群論を確実に理解した近赤外分光など,なんとなく気になっていてモヤモヤしていることを,すっきりさせてみませんか?これこそが化学を学ぶ楽しさと必ず思えます.